こうしたなか、確定的な診断名が出ることを恐れ、受診をためらう人も少なくない。

 冒頭の女性も通報事件がきっかけで受診はしたものの、「(発達障害という)レッテルを貼られると、自分自身も周囲も障害という枠の中でしか息子を見られなくなるのではないか」と不安に駆られたという。だが実際は、診断を受けて安堵した。

「『これからどう関わっていけばいいか、一緒に考えていきましょう』と言われて、ああ、手探りで訳のわからない状態から抜け出せると」(女性)

 一方、小学1年生の娘を持つ自営業の女性(43)は、「ASDとADHDの重複」を疑いながらも受診には至っていない。娘はASDの特性のひとつとされる「想定外の事態への強い拒否感」がある。仕事で遅くなったからと夕食のメニューを急遽変えただけでも、長い間泣きわめく。服装へのこだわりも強く、どんなに出かけるはずの時間を過ぎていても着替えを急ぐことができない。実は夫にも「こだわり」と「衝動性」が見られ、女性は7年前から臨床心理士のカウンセリングに通っている。そこで「夫は受診すれば診断名がつくレベル。おそらく娘さんも同じ」と言われた。

 夫は人の気持ちを想像することが苦手。突然、自分がいいと思うおもちゃを買って帰り、娘から「こんなの欲しくない」と言われ大げんかになることも。2人の仲裁で女性はヘトヘトだ。しかし、そんな状況を保育園の担任に話しても「信じられません。園ではちゃんとしてますよ。お母さん、もっと甘えさせてあげてください」と言われた。

「診断名がつくかつかないかのいわゆる『グレーゾーン』のあるあるですよね。でも、保育園の園長からは『受診は待った方がいい』と言われました。『いま診断名がついて特別支援学級に行くと、通常学級に戻れないから』と。診断がついたところで、『ああやっぱり』となるだけだろうと私も思います」(女性)

 彼女が診断名より欲しいのは、少しでも状況を改善するための具体的なアドバイスや支援だ。発達障害に詳しいあきやま子どもクリニックの秋山千枝子医師もこう話す。

「診断名がつくかどうかにかかわらず、本来は親御さんが育てにくさを感じた時点で支援を開始してほしい」

 発達障害の難しさは、医師だけではなく、他の支援機関や学校などと連携し「チーム」で対応する必要があることだ。そんな体制を持つ医療機関は限られ、評判が高いところほど、受診予約は半年、1年先まで埋まっている。療育を受けられる児童発達支援施設(未就学児対象)や放課後等デイサービス(小学生以上高校生まで)も増えてはいるが、定評ある施設は空きが出るまで1、2年待ちがザラ。

 3歳でASDの診断を受けた娘を2年待ってようやく児童発達支援施設に入れたという女性(36)は、来年の小学校進学に不安を募らせる。

「行政の窓口に相談しても、『学校と直接話してみてください』と言われて終わりでした」

 具体的な支援を受けられる場所と、先の見通しが欲しい──。当事者に共通する願いだ。(編集部・石臥薫子)

※AERA 2019年6月24日号

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