「右折専用信号を設置するだけでも、右折事故はかなり減る。渋谷のスクランブル交差点のように、車と歩行者を分けて通す『歩車分離式信号』も有効です。また、交通事故の1割近くは運転中に気を失って起きています。そうなるといくら普段から安全運転を心がけていても事故を防ぐことはできない。そのためにも、交差点に車止めやガードレールを設置することで自転車や歩行者を守ることはできます」

5月8日、軽乗用車が保育園児らの列に突っ込み、2歳の園児2人が死亡した滋賀県大津市の「大萱(おおがや)6丁目交差点」について県は、現場の歩道に車が進入しないようパイプ状の防護柵を取り付ける工事を開始した。6月中の完了を目指す。

 車が先か、人が先か──。信号機や防護柵などハード面の環境が改善されても、ドライバーに根づいた車優先の考え方は、一朝一夕には変えられない。

 交通問題に詳しい日本大学理工学部の安井一彦准教授(交通工学)は、車も歩行者も交通ルールを守るのが基本だと言う。

「信号機のある交差点では信号の表示を守っていれば、車両同士の事故は起きません。これが基本。その上で、高齢者が増えているので、行政と警察とが一緒になり、啓発活動など取り組みをしていくことが大切です」

 東京・池袋や福岡市の事故のように、高齢ドライバーによる相次ぐ死傷事故が起きている。高齢者が起こしやすいのは、アクセルとブレーキの踏み間違いだ。これを防ぐためには、「衝突防止軽減装置」は必須。中でも歩行者や車線を識別する「ステレオカメラ」と、電波を利用した「ミリ波レーダー」を搭載した車の普及が欠かせないという。

 ドライバーの交通心理について帝塚山大学(奈良県)の蓮花一己(れんげかつみ)学長(交通心理学)は、ドライバーの短所を見極めた対策を立てることが必要と説く。

「事故を起こしやすいのは、運転技能が不足している人や自分をコントロールできない人が多い。技能不足であれば、訓練を受けることや自動ブレーキなど運転支援装置がついた車に乗るのも方法の一つ。一方、普段怒りっぽい人は車を運転しても怒りっぽく、すぐ慌てる人は車を運転しても慌てて事故を起こしやすい。自分をコントロールできないそうした人には教育が必要。教習所などで自分の運転行動を見直すリフレッシュ講習などを受け、運転の悪い癖などに気づき改善することが大切です」

 交通事故防止は、待ったなしだ。あらゆる手段を考え、命を守る社会を実現していかなければならない。(編集部・野村昌二)

AERA 2019年6月17日号より抜粋

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