村上春樹に通じる「癒やし」なら、スコット・フィッツジェラルドの短編集『マイ・ロスト・シティー』だ。

「共通するのはポスト・フェスティウム的な世界観。元気がないとき、『すばらしい時代は終わった』という喪失感に共感し、ホッとします」

 特に表題作は、晩年の著者が自身の全盛期を内省的に振り返ったもの。こんな一節がある。

<車はちょうど藤色とバラ色に染まった夕空の下、そびえ立つビルの谷間を進んでいた。私は言葉にならぬ声で叫び始めていた。そうだ、私にはわかっていたのだ。自分が望むもの全てを手に入れてしまった人間であり、もうこの先これ以上幸せにはなれっこないんだということが>(村上春樹訳『マイ・ロスト・シティー』から)

 そのほか、古典『源氏物語』と、恩田陸の小説『蜜蜂と遠雷』を挙げた。

「これ以外にも癒やされる文学作品はたくさんあります。私自身、文学に何度も救われてきました。自分だけの“癒やし”を見つけてください」

(編集部・川口穣)

AERA 2019年6月3日号

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