「赤ちゃんを連れて東京観光に行く予定。おすすめの場所はある?」と、アメリカの友だちに聞かれました。東京で子連れ移動のしんどさを経験していた私は、おすすめスポットより何より、まず赤ちゃんと一緒に東京を回る行為がアメリカと比べていかに困難かを説明することになりました。「ベビーカーは場所を取るから、抱っこひものほうがいいかも」「電車で席を譲ってくれる人が少ないかもしれないけど、驚かないで」と言いながら、こんなアドバイスを他国の友だちにしなきゃいけないって悲しいよなぁと思ったものです。
アメリカでは、赤ちゃんを連れていればたいてい席を譲ってもらえます。私自身は西海岸のシアトルとポートランドのバス、電車にしか乗ったことがありませんが、ニューヨークやボストンに住んでいた友人も同じ意見でした。どうぞとにこやかに譲ってくれる人もいれば、目を合わせずスッと席を立つ人もいますが、いずれにせよ子連れの存在を無視する人はおらず、日本(というか日本の都心部)とはだいぶ違います。東京では席を譲ってもらえないのがデフォルトで、譲ってもらえたら「ありがとう」と大感激。また常に「すみません、すみません」と頭を下げながら移動していました。
この違いはなんでしょう。日本人よりアメリカ人のほうが優しいってこと? いえ、日本人もアメリカ人も同じ人間。優しさの総量が違うなんてこと、あるわけありません。優しさを発揮する理由が、日米で違うだけだと思うのです。
日本では、優しさは「他者のために」発揮すると捉える人が多いのではないでしょうか。電車で席を譲る際、「妊婦さんだと思うけど、違ったら申し訳ないなぁ」とか「気を遣わせてしまったら悪いなぁ」と必要以上に相手の事情をおもんぱかり、結果的に「譲らない」という選択をしてしまう。優しい人とはつまり他者のために自己犠牲をいとわない聖人君子のような存在で、「電車で席を譲るなんて、善人ぶっているようで恥ずかしい」と感じます。
一方、アメリカ人の思考を深堀りすると、優しさは「自分のために」発揮している場合が多いのではないかと思います。