昨年、東京医科大学ら10医学部の不適切入試が指摘された。 編集部の独自調査によると、今年の医学部入試で、女性の合格比率は多くの医学部で上昇した。一方、受験生の間では混乱が続いている。
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報じられたような不利はある程度解消され、これまでよりクリーンな入試になる。そんな期待と予感は、女子や多浪の医学部受験生に共通していたようだ。
「さすがに今年は不正できないはず。私は女子で浪人生だから、かえってチャンスかもしれないと思っていました」
そう語るのは、1浪の後、今年医学部に合格した女子学生(19)だ。受験した10校のうち5校に合格、4月から東京医科大学へ進学している。
「バレたらまずいから、しばらくは悪いことはできないだろう」
6浪の末、今年私立医大に合格した男子学生(24)も、医学部受験仲間とこんな会話を交わしたことを覚えている。けれども、彼の場合、自分が有利になるとは思えなかった。
「補欠合格しても繰り上げがまったくまわってこなかったり、面接で『なんでこんなに浪人しちゃったの?』という質問をされたり、多浪生は求められていないという実感がありました」
昨年8月、東京医大で女性受験者の得点操作が明るみに出たことを皮切りに、複数大学医学部での不正入試が発覚した問題は記憶に新しい。AERAでも昨年8月27日号の記事で触れたように、受験生や医学部生たちの見解の多くは、「やっぱりあったか」「点数操作はやりすぎ」という冷めたものだった。
先の男子学生も、「昨年明るみに出た不正は氷山の一角に過ぎないかもしれない」と考え、志望校選びはいつも以上に慎重に行った。過去のデータや「多浪生が○人受かった」「年齢が高めの合格者もいるらしい」という口コミを頼りに、合格の可能性が高そうな大学を選んだという。
受験が終わり、自身の周囲を見ると、どうやら例年と様子が違う。浪人中にうつ病になった知り合いの多浪生も、今年は合格したと聞いた。
今年の医学部入試に何が起こったのか。大手医系学部専門予備校「メディカルラボ」で長年医学部受験生の指導にあたってきた可児良友さんに話を聞いた。メディカルラボは、今年医学部医学科に延べ999人の合格者を出している(4月25日現在)。
「うちでは、今年の医学部合格者は昨年に比べ、女子は1.2倍、多浪生で1.4倍多かった。同じ学力の生徒を比較すると男子のほうが合格しやすい傾向のあった大学にも女子が受かっています。大学側に『女子や多浪生が不利にならないよう』との意識が働いたのでは」(可児さん)
全国医学部の志願者と合格者に占める男女数について編集部が独自調査を行ったところ、昨年8月の同内容の調査に比べ、多くの大学で女子学生が入りやすくなったことがわかっている(表参照)。