平成では天皇や皇后が全国各地でひざまつき、被災者目線で語りかけることで、国民一人ひとりに直接つながる関係が強まった。そこから映し出される平成時代の天皇の役割と成果とは何だったのか。放送大学教授の原武史さんが解説する。
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天皇と国民がより鮮明になったのが、2011年3月の東日本大震災から5日後に天皇が発表したビデオメッセージだろう。天皇は国民に向かって、「国民一人びとりが、被災した各地域の上にこれからも長く心を寄せ、被災者と共にそれぞれの地域の復興の道のりを見守り続けていくことを心より願っています」と述べている。
自らの言葉を実践するかのように、天皇はこの年の3月から5月にかけて、皇后とともに7週連続で1都6県の被災地や避難所を日帰りで回った。その模様は、首相や宗教者、ないしは皇族の被災地訪問よりも、はるかに大きく報道された。もはや右派からの批判はほとんどなかった。
NHKが5年ごとに行っている「日本人の意識」調査で、「あなたは天皇に対して、現在、どのような感じをもっていますか」という質問に対する反応が、08年と13年では大きく変化している。「尊敬の念をもっている」と答えた人々が25%から34%に増えたのに対して、「特に何とも感じていない」と答えた人々が39%から28%に減ったのだ。