小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。対談集『さよなら!ハラスメント』(晶文社)が発売中
小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。対談集『さよなら!ハラスメント』(晶文社)が発売中
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4月12日の東大入学式で上野千鶴子名誉教授が述べた祝辞が大きな反響を読んでいる (c)朝日新聞社
4月12日の東大入学式で上野千鶴子名誉教授が述べた祝辞が大きな反響を読んでいる (c)朝日新聞社

 タレントでエッセイストの小島慶子さんが「AERA」で連載する「幸複のススメ!」をお届けします。多くの原稿を抱え、夫と息子たちが住むオーストラリアと、仕事のある日本とを往復する小島さん。日々の暮らしの中から生まれる思いを綴ります。

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 努力すれば報われると思えるのは、環境に恵まれていたからだ。そのことを自覚してほしい。世の中には努力しても報われないことがあると知ってほしい。

 東京大学の入学式で上野千鶴子さんが述べた祝辞が話題です。冒頭で東京医大の入試の点数操作で女子学生が不利な扱いを受けたことに触れ、この社会は多くの女性にとっては頑張っても報われず、頑張る機会すら与えられない場所であることを示しました。そして、東大内にも女性排除の構造はあると指摘。東大生の8割は男子です。なぜ上野さんは、そんな話をしたのでしょうか。中には「帰れ」「祝辞の意味知らんのかなきもい」「祝辞でクソフェミ披露するな」とツイートした新入生たちもいました。

 上野さんは、2016年に男子東大生ら5人が起こした強制わいせつ事件を題材にした姫野カオルコさんの小説『彼女は頭が悪いから』に触れ、昨年東大で行われたブックトークにも言及。小説は、偏差値信仰が性差別と結びつくと何が起きるかを示唆しています。私も企画に参加したブックトークでは、作者とともに事件の再発防止を話し合うことが目的でしたが、「小説は東大生への偏見を助長する」と批判する教員と「東大が自らの弱さと向き合うことが必要だ」と訴える教員とで意見が分かれ、東大ブランドの重さと、それを内面化した人々の自意識のありようを考えさせられました(東大新聞オンラインに詳報あり)。

 知性とは、自らの弱さと向き合う勇気のことではないかと思います。日本一の学力を誇る新入生たちが、大学での学びを通じて何者でもない自分を発見し、その不安と格闘しながら知識を血肉とすることを願います。上野さんの祝辞をディスった若者たちもいつか、祝福とは称賛ではなく、信頼と期待であると気づけますように。

AERA 2019年4月29日号-2019年5月6日合併号