

1996年、27歳でジバンシィのデザイナーに抜擢され、40歳で自ら命を絶った天才デザイナー、アレキサンダー・マックイーン。彼に直接、ショーのモデルを依頼された冨永愛さんが語るその素顔とは──。
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肌に吸い付くような質感、全身を覆う完璧なシェイプ──アレキサンダー・マックイーンのスーツを着て現れた冨永愛さんに思わず「着やすそうですね」と言うと、
「いやいや!(笑)究極にボディーコンシャスなので、着るのは大変なんです」
と、愛情を込めた笑い声が返ってきた。
冨永さんがマックイーンのショーでトリを務めたのは2003年。公開中のドキュメンタリー映画「マックイーン:モードの反逆児」を見た冨永さんは改めて彼の生い立ちや創作の秘密を知り、「やっぱり唯一無二の人だった」と振り返る。
リー・アレキサンダー・マックイーンは1969年、ロンドンの労働者階級に生まれた。23歳でデザイナーデビューし、エレガントかつ過激な美的センスでモード界に衝撃を与え、27歳でジバンシィのデザイナーとなる。自身のブランドも展開しデヴィッド・ボウイやキャサリン妃など多くの顧客に愛された。
「リーから『愛にショーの“トリ”をやってもらいたい』と依頼をいただいたんです。モデルの誰もが憧れるデザイナーでしたから、うれしかったですね」
映画にもそのシーンが登場する。雪女をイメージした鮮やかな打ち掛けを羽織り、吹雪の中でそれをはためかせる様は、えもいわれぬ美しさだが、
「あの打ち掛けは布団みたいで、ものすごく重かったんです。それを着て直径3メートルはある巨大な扇風機でガンガン風を当てられながら、透明なトンネルのなかをいまで言う“イナバウアー”で歩いてくれ、と言われました。しかも打ち掛けの下はショーツ一枚! 『こんなに強風なんて聞いてないよ!』って思いましたけど(笑)、それでも彼の世界観の一部になれたことは光栄で、後にも先にも忘れられないショーになりました」