小説家の柚木麻子さんによる『マジカルグランマ』では、映画監督志望の少女、子育て中のパート主婦ら、わけありの仲間とともに「理想のおばあちゃん(マジカルグランマ)」から脱皮する女性の日々を痛快に描く。著者の柚木さんに、同著に込めた思いを聞いた。
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結婚後女優を引退し主婦となった正子。75歳を目前に再デビューを果たしブレークするが、夫の突然の死で仮面夫婦だったことがバレ、炎上。夫の借金返済のために自宅を売ろうにも解体には莫大な費用がかかると判明。そこで思いついたのが、自宅をお化け屋敷にすることだった──。
同時代の風俗をバルザックのような視線で、かつコメディエンヌのマナーで描いていく柚木麻子さんの新作は、現代社会を生きる高齢者がテーマだ。シニア俳優、空き家問題、断捨離……。その中に柚木作品の肝である世代をこえた、あるいは同世代の女性同士の関係性が描かれる。
出産後、自宅と保育園を往復する日々のなか、限られた時間での執筆。しかしこのことが高齢者を描く上で追い風になった。
「高齢者のコミュニティーを取材して印象に残ったのが、いま持っている資源をリメイクすることに夢中になっている人が多かったことでした」
当時はピンときていなかったが、出産後に行動範囲が狭まり体力も落ちてみると、「自分もお年寄りなんだ」と思えたという。
「そうすると、いま持っているもので何とかするということが腑に落ちました。そこで思いついたのがお化け屋敷なんです」
できるだけ多くの人に好かれたいと思っていた正子が、突然の夫の死からふりかかってきたもろもろの災難のなかで「一人でも多くをびっくりさせたい、面白がらせたい」と思うに至る過程が痛快だ。人を笑わせる経験、笑いで周りを幸せにする経験は、自尊感情を高めていく。そして共に笑いあっている時には連帯感情が生じる。ガーリーカルチャーがシスターフッド(女性同士の連帯)を経由してフェミニズムに流れていく時の重要な要素としてコメディーが介在していると、柚木さんの作品を読むと思えてくる。