

光さえのみ込む暗黒天体ブラックホールの姿を、人類が初めて写真にとらえた。国境を越えたチームが、とんでもない「視力」を作り出した結果だ。
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「みなさん、よろしいでしょうか。これが、人類が初めて目にするブラックホールの姿です」
世界6カ所で同時に行われた記者会見は、日本時間で4月10日午後10時。研究チームの日本代表を務める国立天文台の本間希樹(まれき)教授が、とても誇らしげに1枚の画像を映し出した。
かなりぼやけた画像だが、光の輪の中心に黒い領域が確認できる。光の輪は、ブラックホールの周囲を取り巻く高温ガスで、その中央部分の暗黒領域はブラックホールシャドウと呼ばれる。ブラックホールは光すらのみ込む暗黒の天体で不可視であるため、実際にはこのシャドウの撮影に成功したことが、そこに隠れているブラックホールの存在を人類史上初めて視覚的に証明したことになるという。
「ブラックホールはアインシュタインの一般相対性理論から予言された天体で、その後約100年、天文学者が理論的な証拠を積み上げながら追い続けてきたテーマだ。初めてブラックホールを視覚的に証明し、銀河の真ん中にブラックホールの存在を決定づける意味ある1枚だ」
撮影されたのは、地球から5500万光年離れた銀河「M87」の中心にあるブラックホール。日本では春の星座として南の空に見えるおとめ座の方向に位置する。M87は、その位置の特定や、吸い込むはずのブラックホールから逆に噴き出るジェットと呼ばれる超高エネルギーのガスの生成理論などの研究で日本人が世界を率いてきた。
このブラックホールの質量は太陽の65億倍。画像解析で、中央部はへこんでいることがわかるという。大きさは実物が見えないため不確かだが、直径1千億キロの光の輪の中にあることから巨大さが想像できる。しかし、これを地球上から撮影するには、月面上のテニスボールを地球から見付ける視力が必要になる。人間の視力が1・0程度だとすると、その300万倍が必要で、ハッブル宇宙望遠鏡でも約1500倍にとどまる。