小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。対談集『さよなら!ハラスメント』(晶文社)が発売中
小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。対談集『さよなら!ハラスメント』(晶文社)が発売中
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学生を狙った就活セクハラが立て続けに2件報じられた。弱者を責めるのではなく、あらゆるセクハラにNOを突きつける社会に (c)朝日新聞社
学生を狙った就活セクハラが立て続けに2件報じられた。弱者を責めるのではなく、あらゆるセクハラにNOを突きつける社会に (c)朝日新聞社

 タレントでエッセイストの小島慶子さんが「AERA」で連載する「幸複のススメ!」をお届けします。多くの原稿を抱え、夫と息子たちが住むオーストラリアと、仕事のある日本とを往復する小島さん。日々の暮らしの中から生まれる思いを綴ります。

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 就活セクハラの話を聞いて、思い出したことがあります。就活中にアドバイスをくれた、ある社会的地位の高い熟年男性に、内定のお祝いに食事に誘われたのです。食事の後に隣のバーに行こうと言う。電車の時間までならと同行したら、小さなグラスに入った透明なお酒を勧められました。クイッと飲み干したら、物が2重に見えました。アルコール95度のスピリタスでした。すぐに電車で1時間以上かかる自宅まで帰り、玄関先で嘔吐。うまく呼吸ができないことに気づき、自分で救急車を呼びました。母に付き添われて搬送された病院で受けた診断は急性アルコール中毒。点滴で回復しましたが、今思うとつくづく悪質だと思います。

 けれど私は彼を疑いもせず、飲み過ぎて失敗しちゃったなあと思っていました。あの男性は飲ませた後どうしようと思っていたのか、ハタと気付いたのは、一昨年の伊藤詩織さんの告白がきっかけです。

 当時は信じていたのです。目上の人の誘いは断るべきでないし、お酒の失敗は自分のせいだと。仕事にお酒の付き合いはつきものという慣習を疑うこともなく、自分が狙われているとも考えませんでした。父と同い年のおじさんは、私にとって性的存在ではなかったから。

 就活セクハラで逮捕者が2人出ました。立場の差を利用して、相手の信頼と弱みに付け込む手口は卑劣の極み。女子学生を責めるのは間違っています。学生が社会的肩書のある人を信用するのは当然だし、志望企業の社員ならなおさらでしょう。

 就活勝ち組のOBが、クソ野郎ということもあります。それを知らない学生を責めるのではなく、守るのが大人のやるべきことです。学生の皆さん、相手が誰でも、あなたはNOと言っていい。あなたの落ち度じゃない。この問題は断じて放置してはなりません。

AERA 2019年4月15日号