

いつまでも輝き続けると思っていたスーパースターが、ついに引退した。日本を覆う「イチローロス」。人々は今後の彼に何を期待しているのだろうか。
【写真】神戸のファンに優勝を報告するオリックス時代のイチロー
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「今日の球場の出来事、あんなもの見せられたら後悔などあろうはずがありません」
最後の試合後、球場に残ったファンの声援に応えたあとの会見。イチロー(45)はどこか吹っ切れたような表情でこう話した。その様子をテレビで見つめていたのが、現役時代「安打製造機」の異名をとり、イチローが小学校の文集に「田尾選手みたいになりたい」と記すなど憧れだった田尾安志さん(65)だ。
開幕の2試合、田尾さんの目には「いいスイングになってきた」と映っていた。もう少し、時間があれば。あと少し何か足りないだけ。そう見ていた。
「ヒットが出なかったのに、ファンは残ってくれた。それがいちばん、イチローは嬉しかったんでしょう。ファンが喜ぶ、それがいちばんのエネルギー。そんな選手、なかなかいません」
だからこそ、イチローには「プロ野球の監督になってほしい」と力をこめる。
田尾さんが初代監督を務めた楽天は、2005年のシーズンでリーグ最下位に終わるなど、なかなか勝てなかった。それでも田尾監督にとって「何かファンにお見せできるところはないか」は最重要ポイントだったという。その姿勢を既にしっかりと持っているイチローに、経験者として監督就任を期待する。
ただ、イチローは最後の会見で「監督は絶対無理。人望がない」と自嘲気味に語った。
「若い時から人望のある人なんていません。地位に立てば、それはついてくるでしょう」
もちろん、監督とは「勝たなければいけない」厳しい世界。メジャーでは、負けてやじられる姿はむしろ見たくないと、スター選手の監督就任を避ける雰囲気さえあるという。イチローが経験した現役28年間とは、全く違う世界がある。
「そこは監督なら皆が通る道。『ファンのために』を重視するイチローなら、優れた指導者の域に行く。そう育っていくものですしね」