累計40万部を突破した『傲慢と善良』(朝日文庫)。ヒットの理由はひとつに、ミステリとしての面白さがある。主人公はひと組の男女。西澤架(かける)の婚約者、坂庭真実(まみ)がある日突然、姿を消す。彼女からストーカーの存在を聞いていたこともあり、架はその無事を祈りながら行方を探す。真実はなぜ消えたのか、どこでどうしているのか、ふたりは再び会うことができるのか……展開から目が離せない。
架と真実は、婚活アプリで出会った。いまや婚活アプリ、マッチングアプリがきっかけで結婚にいたるカップルはめずらしくない。こうしたサービスの普及で、出会いのチャンスは大きく広がった。しかしそれで誰もが結婚までの道のりを短縮できるわけではない。
出会うことはできる、けれど、この人と結婚するのが正解かどうか迷ってしまう。架もその壁にぶつかった。「何かが合わないと感じる」「ピンとくる相手と巡り合えない」「決め手がない」――出会っているのに出会えていない、といった状態がつづき、疲れを感じていた。
婚活に悩み、疲れ、ときに足掻く男女の心模様が圧倒的なリアリティでもって書かれていることも、同作がロングセラーとなった理由のひとつである。たくさんの読者から“刺さる”という声が届いている。
では、結婚する人たちには必ず、「ピンときた」瞬間や、「結婚するならこの人だ!」という決め手があるものなのだろうか。
大阪在住のリョウタさんは鳥取に赴任中、婚活パーティに参加した。しかし、結婚の意志はなかった。
「32歳のときですね。僕は結婚願望がなく、いずれは大阪の本社に戻る予定だったので、デートする相手が見つかればいいなぐらいのノリで参加しました。何人かとマッチングしたけど、その女性のことは好みの順でいうと3番ぐらい。正直なことをいうと、印象も薄かったんです」
後日、6歳年下のその女性とたまたま時間が合ったのでデートをした。何度かのデートの後、彼氏/彼女の関係に発展した。
「実は僕、女性と長期間つき合った経験がないんですよ。だいたい1、2年ぐらいで別れるタイミングがくる。彼女ともそんな感じだろうなと思っていました」