「踏み切った後、手に抵抗が多いので難しく感じてしまいました。フリーで絶対に巻き返したいです。いつもの試合と同じくらいの自信に持っていきます」
そうリベンジを誓うと、翌日は別人のようだった。怪我の痛みを顧みず、サブリンクで行われた朝練では、トリプルアクセルを何度も跳んだ。
「ショートの時は、まだ怪我をしている跳び方に慣れていませんでした。やっぱりトリプルアクセルの練習をたくさんやらないと。朝練からは、(空中姿勢で)いつもは手を真ん中に寄せるけど、ちょっと右のほうに強く早く寄せるというイメージにしました」
なんと試合当日の朝に新しいフォームを考えだし、手応えをつかんだ。さらにフリー本番の直前には、冷静な判断もした。
「思った以上にメインリンクの氷に慣れていない。トリプルアクセル2本だと難しい。無理なく安全に良い成績を残せるように1本にしよう」
本番は、氷に降りた瞬間から集中していた。
「怪我をした状態でのジャンプにも、靴にも慣れた。今日まででできることはやり尽くした」
冒頭でトリプルアクセルを成功。流れに乗ると、すべてのジャンプをパーフェクトに決めた。
「最後の最後までミスは許されないと思っていました。なんとかジャンプは全部立ったので良かったと思って、素直にガッツポーズが出ました」
得点は153.14点の高得点で、総合221.99点。逆転での優勝となった。
「やはり今回一番の経験は指の怪我。この大会ではトリプルアクセルは入れられないと思い不安もありましたが、怪我の翌日から跳んでいくことで、何とか乗り越えられました。最後には、集中して前を向いてやるしかないと考えることができました」
靴の交換も怪我も、紀平にとっては世界女王に向けた経験の一つになる。
「ショート、フリーでトリプルアクセル計3本入れての完璧な演技はまだないので、世界選手権ではパーフェクトを目指します」
自信に溢れた笑顔を見せた。
一方、ショートで2位だった坂本花織(18)は、フリーでは得意の連続ジャンプでミス。
「いつもは自分に集中するけれど、今日は何点以上だせば勝てるとか考えてしまった」
総合206.79点で4位となり、世界選手権に課題を得た。
三原舞依(19)は、フリーはパーフェクトの演技をみせ逆転での銅メダル。銀メダルは、4回転に挑戦したエリザベート・トゥルシンバエワ(カザフスタン)。女子の高度ジャンプ時代を感じさせる一戦だった。(ライター・野口美恵)
※AERA 2019年2月25日号より抜粋