市川さんは薬剤の服用には抵抗があるという。
「薬を飲めば効くよって言われるんですけど……もともと薬はあまり飲みたくないんです。でも、スギ花粉米なら食生活の中でお米として取り入れることができるので抵抗がありません」
しかし、開発から15年が経った今も、スギ花粉米実用化のめどは立っていない。市川さんは言う。
「こんなにいいお米が開発されているなら、早く世の中に登場してほしい。もどかしい思いをもっています」
早期の実用化に「待った」をかけたのは、厚生労働省だ。
農研機構を所管する農林水産省によると、07年4月に厚労省が発表した「スギ花粉を含む製品の薬事法上の措置等について」との通知で、花粉症の治療または予防のための使用を目的とする製品は「医薬品に該当する」との判断が示された影響が大きいという。
この通知は同年2月、和歌山県内のスギ花粉症患者の女性が、スギ花粉を含む健康食品(スギの若い雄花の芽をカプセルに充填した花粉加工食品)を摂取したことが原因と疑われる重篤なアレルギー症状を発症したことを受け、専門家による検討会を経て決定した。
農水省は、スギ花粉米を食品として流通させるつもりだったが、この通知によって方針転換を余儀なくされた。医薬品や医療機器の安全性確保に必要な規制などを定めた「薬機法」(旧薬事法)に基づく治験と承認を経る必要が生じたのだ。
こうした中、将来的な医薬品、食品両面の普及を視野に入れたスギ花粉米の臨床研究が始まっている。
大阪はびきの医療センター(大阪府羽曳野市)は、計55人(平均年齢40歳)のスギ花粉症患者を対象に、24週間と96週間の2通りの摂取期間で安全性と有効性を確認した。
被験者はスギ花粉米を一定量混入(5グラムと20グラム)したパック米(50グラム)を1日1回、経口摂取。血液検査などの結果、5グラムの96週間の摂取により、花粉症症状の改善につながる免疫応答の低下が認められ、人体への有害作用も確認されなかった。田中敏郎副院長(60)は言う。