農研機構の隔離圃場で栽培されているスギ花粉米を収穫する関係者=2017年8月9日(写真:農業・食品産業技術総合研究機構提供)
農研機構の隔離圃場で栽培されているスギ花粉米を収穫する関係者=2017年8月9日(写真:農業・食品産業技術総合研究機構提供)
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スギ花粉米の細胞壁。米の主要部である胚乳に存在する、消化されにくいプロテインボディ(PB-・)と呼ばれる球状顆粒にペプチドを大量に蓄積させている(写真:農業・食品産業技術総合研究機構提供)
スギ花粉米の細胞壁。米の主要部である胚乳に存在する、消化されにくいプロテインボディ(PB-・)と呼ばれる球状顆粒にペプチドを大量に蓄積させている(写真:農業・食品産業技術総合研究機構提供)

 お米を食べるだけで花粉症を根治する。そんな治療法に挑む研究者たちの努力が実を結ぶ日は近い。

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 茨城県つくば市の田んぼで、黄金色の稲が風に揺れていた。どこにでもある田園風景と異なるのは、周囲が厳重なフェンスで囲まれていること。そこは国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)の隔離圃場(ほじょう)。フェンスは、遺伝子組み換え農作物やその種子を外に出さないためだ。

 栽培されていたのは、遺伝子組み換え技術を駆使した「スギ花粉米」だ。スギ花粉米は、花粉症を引き起こす抗原(アレルゲン)の一部、「ペプチド」を遺伝子組み換えによって内部に蓄積させた米。通常の食用品種にペプチドの遺伝子を組み込んでおり、通常の米と栄養分の組成や味に違いはない。

 この米を食べ続ければ、スギ花粉症の抗原を少しずつ体内に取り込むことができる。体を抗原に慣らし、花粉への防御反応が起きないようにすることで花粉症を治療する免疫療法の一種だ。いつものごはんに少し混ぜるだけでよく、舌下免疫療法に比べ、患者の負担を大幅に減らせる利点がある。

 農研機構がスギ花粉米を開発したのは2003年。消費者団体「食のコミュニケーション円卓会議」の市川まりこ代表(64)は17年の夏、この隔離圃場を見学した。栽培環境を自分の目で確かめるためだ。

「素人目線ですけど、全く普通のお米でした」

 担当スタッフは市川さんに、スギ花粉米が体内で作用する仕組みなどを丁寧に説明してくれた。遺伝子組み換え技術によって、さまざまな病気の治癒の可能性を持つお米の開発に、市川さんは強い関心を持った。

 同会議は、スギ花粉米の市民向けセミナーを毎年開催。農研機構や臨床研究をしている病院の研究者らを招き、最新の研究結果を共有している。市川さんがスギ花粉米の実用化に熱心なのには理由がある。市川さん自身、花粉症の患者なのだ。

「毎年1月ごろから頭痛と鼻水の症状が出ます。人とお話ししている大事な場面で、『すみません』と鼻をかむことになるので困っています」

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