実質上、移民解禁の方針をとることとなった日本。そんな中、課題となっていることのひとつが、外国人への医療だ。外国人患者が母国語ではない国で医療を受けることは、時に本人や病院側にとっても、リスクや問題となることがある。
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40代のネパール人女性、ガンガ・ダンゴール・栗原さんは、12年前、医療通訳として初めて患者と向き合った。千葉県の病院のベッドに小学1年の男の子が寝ていた。目は虚ろで「痛い」とか細い声で言う。医師は「脳腫瘍で余命3カ月」とネパール人の両親に告げた、はずだった。しかし、調理人の父と母の表情は妙に明るい。ニコニコしている。通訳を知人に頼んでいた。おかしいと病院側は感じ、ガンガさんが派遣された。
ガンガさんは日本語検定1級の資格を持つ。保健医療NGOで専門の研修を受け、医療通訳デビューしたばかりだった。医師の前で「この子は3カ月経ったら死にます」と直截に両親へ伝えた。一瞬、シーンと静まった後、「なぜ、正しく説明してくれなかったのだ!!」と両親は泣き崩れ、半狂乱となった。
ガンガさんは回想する。「前の通訳は『余命』の意味を理解していなかった。日本の大病院で最先端の治療をしてもらってるから、子どもは治る、と正反対のことを言っていた。8時間かけて、先生の説明を逐語で通訳し、やっとご両親は覚悟してくれました」
1時間1万円の通訳料と交通費は病院と外国人支援団体が払った。その後、ガンガさんは電話による医療通訳の会社、メディフォンなどと契約し、活動を続けている。
外国人の急増で医療現場が混乱気味だ。ところが、外国人患者に必須の「医療通訳」になかなか光が当たらない。病院での言葉の壁が、どれほど誤解と恐怖、医療事故のリスクをはらむか、想像してほしい。
東京都文京区の東京医科歯科大学医学部附属病院は、「救急車を断らない」をモットーに、外国人患者も受け入れる。保険に未加入で医療費全額自己負担の患者も運ばれてくる。医療費の未収や、さまざまな同意が得られにくいリスクもある。