天皇陛下が昨年末、誕生日を前にした会見で何度も感極まり、言葉を詰まらせながら思いを語った姿は記憶に新しい。次世代の皇室は、その思いをどのように受け継いでいくのか。朝日新聞社会部の島康彦氏がレポートする。
【写真】愛犬を連れて那須御用邸の敷地内を散策する皇太子ご一家
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2018年9月26日。皇太子さま(58)と雅子さま(55)は福岡県朝倉市の応急仮設住宅林田団地を訪れていた。17年7月の九州北部豪雨で、多くの死者・行方不明者を出した被災地。家を流されるなど、自宅に戻れない人たちが身を寄せていた。ここで、印象的な場面があった。
被災者の中に、車椅子で出迎えた古賀チトセさんがいた。当時97歳。自宅が全壊し、近くの介護施設で暮らしていた。皇太子ご夫妻は歩み寄ってしゃがみこみ、いたわるように目線を合わせた。「長生きしてくださいね」。古賀さんの手を両手で包むように握った雅子さま。その上から、皇太子さまもそっと手を添えた。
お二人が力を合わせるように手を重ねる姿は、天皇(85)、皇后(84)両陛下には見られなかった光景だ。側近の一人は「二人三脚で歩んでこられた、ご夫妻ならではのなさりようだろう」とみる。
国民の中に入っていく皇室──。
これは、皇太子さまが繰り返し語ってきた皇室像だ。
その意図について、皇太子さまは1996年の誕生日前会見で「国民が皇室に対して何を望んでいるか、何をして欲しいかということを認識すること」と語り、国民の声を聞いていきたいと語った。天皇陛下の「国民と共にある皇室」と類似する表現だが、さらに国民に近づこうという気概が感じられる。
だが、ご夫妻の歩みの中で国民との関係は必ずしも良好であり続けたわけではなかった。
元外交官として注目された雅子さまには、結婚当初から「それまでのキャリアが生かされていないのでは」との批判が根強く、適応障害の長期療養に入った後も「本当に病気なのか」との声まであがった。04年9月には皇太子さまが撮影した長女愛子さまのビデオ映像が公開された。皇族方のプライベートな映像公開は異例中の異例で、「発達に遅れがある」などの心ない見方に対するご夫妻の「反論」ととらえられた。
妻と娘を支える皇太子さまには、「マイホーム主義」と揶揄する向きもあった。一部のネットや週刊誌などでそうした見方が増幅されていった。当時の側近は、こう振り返る。
「ご一家は自分たちが正しく理解されていないと、殻の中に閉じこもっていた雰囲気だった。国民との窓口であるはずの私たちとも距離があったように思います」