だが、相続人以外は通帳からお金を引き出すことはできない。男性は市の費用で火葬され、政教分離の原則のため、お経を唱えてあげることもできなかった。

「葬儀のために自分でお金を蓄えていたのに、本人の遺志をかなえることができないことが、とても切なかった」(北見さん)

 事業を開始して約3年半。これまでに358人が相談に訪れ、37人が登録。7人が亡くなって生前に希望したプランが実施されたという。

 その中の一人、81歳で亡くなった女性は亡くなる2カ月前、「私が死んだら夫の骨壺の隣に置いてもらえないでしょうか」と相談にきた。2カ月前に夫を亡くしたばかりで子どもはおらず、頼れる親族もいない。女性は市の事業に登録して葬儀社と生前契約した。死後、女性の遺骨は市内の寺の永代供養墓の中にある夫の骨壺の隣に置かれ、白いひもで固く結ばれた。

 一方で、別の女性は亡くなった後、先に亡くなった夫の墓の場所を甥や姪も知らなかったため、今も市の無縁納骨堂に置かれているという。

 遺族の連絡先がわからずに無縁遺骨になる場合や、生前契約の書類やせっかく書いたエンディングノートもどこにあるかわからず、故人の希望がかなえられないこともある。そこで、同市はすべての市民を対象に、墓の場所や葬儀の生前契約先、緊急連絡先などを市に登録する「わたしの終活登録」も18年5月からスタートさせた。搬送時や死後、自身が登録した終活情報を、本人が指定した人や病院や消防、警察からの問い合わせに市が答える。11月に86歳の男性が亡くなったときは、遠方に住む姪から「私が知ってもいい情報を教えてください」と市に問い合わせがあり、男性が親しくしていた友人に連絡でき、みんなで見送ることができたという。

「情報が伝わらないために生前の希望をかなえられないこともある。市が少し手助けすることで市民の最期の尊厳を守れたらと思っています」(北見さん)

(編集部・深澤友紀)

AERA 2018年12月31日号-2019年1月7日合併号より抜粋