公平性が問われるはずの大学入試で、なぜ不正が黙認されてきたのか? 医学部不正入試問題の原因とも言える、医師の労働環境問題に迫った。
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医療業界に女性差別が生まれる背景には、医師の過酷な働き方がある。
「医師の就労環境を考えれば、男性を多めに採りたいという動きが出るのは仕方ない」
と本音を吐露するのは、都内の私立大学医学部准教授で外科医師の40代の男性だ。
この男性は臨床、学生の指導、自身の研究で、休みは月に3日程度。その休みすら、学会があればつぶれる。ひと月の就労時間は300時間を優に超す。
「周囲に女性医師はほとんどいません。これは差別というより性差ではないか」
産休や育休でブランクがあると、一時的に手術の技術に影響が出ることもある。時短勤務で当直や土日のオンコール、勤務時間外の緊急時にも対応できなければ、手術の機会も均等には回ってこない。結果として、外科を選択する女性医師は少ないのが現実だ。
「ひとつの科に数人しかいない病院なら、当直業務が回らなくなってしまう。医師を送り込む医局に、病院側から『男性を回してほしい』と依頼がくる。少なからずの患者や家族からも『男性の主治医でお願いします』と言われるんです」
だが、休みもないほど疲弊して働けば、女性だけでなく男性も判断ミスをする。さまざまな事情を抱えた医師が治療することで、さまざまな患者のニーズをくみ取ることができる。変えるべきは、長時間働ける人しか残れない働き方のほうなのだ。
厳しい労働環境だから体力がない女性には過酷、結婚や出産で女性医師の多くが辞めてしまう現実があるなど、不適切入試について大学側を擁護する意見は、メディアでも散見された。だが、現役の産婦人科医で2児の母でもある宋美玄(そん・みひょん)さんは違和感を抱く。
「これは生存者バイアスの最たるものです。 『私は女性医師だが男性と比べ遜色なく働いている。女性だからと言って働けないという言い訳をする人はいらない』などと自分はちゃっかり医者になった後、後輩になるかも知れない人に対して厳しいハードルを課す人もいます。受験生や医療サービスの受け手の視点が欠けていると感じます」