そんなムンクが、心のうちを絵にぶつけ、最初の「叫び」を描いたのが1893年、30歳のときだ。パリ留学で印象派の新しい風に触れ、ベルリンで開いたムンクの個展が「前衛的」などの理由で1週間で打ち切りになった翌年のことだった。
その後ムンクは全部で4枚の「叫び」を描き、現在、東京都美術館で開催中の「ムンク展─共鳴する魂の叫び」では、テンペラなどで描いた最後の「叫び」を楽しむことができる。
ラーセンのピストル暴発事件などもあって、神経症やアルコール依存症を悪化させ1908年には療養生活に入ったムンクだが、その同じ年にノルウェー王室から勲章を授与されるなど、国民的画家の道を歩み始めた。2001年からはノルウェーの1千クローネ(約1万3千円)紙幣の肖像にもなっている。
第2次世界大戦では、ドイツ軍がノルウェーに侵攻、ムンクは終戦を待たずに44年1月、オスロ近郊にあるエーケリーの自宅で、ひとり亡くなった。最後の作品は、やはり自画像。もしムンクがインスタグラマーだったら……「いいね!」。
(ライター・福光恵)
※AERA 2018年12月24日号