その後、初めての海外旅行でニューヨークに行った。街で見たこともないおしゃれな段ボールが目に入った。「そうか、段ボールって世界中にあるんだ」。そこから段ボール集めが始まった。
最初に段ボール財布を見せたときの周囲の反応は「カッコいい」から「ホントに使えるの?」まで賛否両論。だが、その年の大学の芸術祭で500円で売り出したところ大好評だった。その後、改良を重ね、ワークショップで子どもから大人まで誰もが作れるまでに進化させた。
「最初は漠然と『段ボールの概念を変えたい』と思っていました。やっているうちに『不要なものから、大切なものへ』とコンセプトが言語化できていったんです」(島津さん)
段ボールは必ず現地に足を運んで拾う。使われた後、というのが重要だからだ。
「段ボールはいろんな国を旅している。その過程で文字が書かれたり、蹴っ飛ばされたり。最終的には物を出したら、たたまれて、捨てられてしまう。そのはかなさも魅力なんです」
9年間で30カ国をまわった。使用済み段ボールを携えての旅では、フランスでテロリストに間違われたり、イスラエルで不審者と疑われ、4時間も空港で足止めされたこともある。が、おおむねどこの国でも、寛容に受け入れられるという。
段ボールにはたくさんの物語が詰まっている。例えば農業大国オーストラリアでは、野菜や果物の段ボールのデザインが格段に凝っている。スペインやイタリアのものは色合いが鮮やか。インドは強度に難ありだが、手触りがやさしい。
段ボールを選ぶ基準はインスピレーション。色やデザイン、その国や土地の言語などご当地感もポイントだ。落書きや印刷のかすれ具合が魅力だったりもする。裏側をはがして使うので、汚れも気にしない。それでも「豊作」なときで1日10枚。終日かけて3、4枚なこともある。
そんな島津さんの活動が、12月公開のドキュメンタリー映画「旅するダンボール」に映し出される。段ボール探しの旅や、ワークショップの様子のほか、お気に入りの段ボールのルーツを探す「里帰り」旅では、ある家族のストーリーにつながる思わぬ展開に驚かされる。映画を観たあとは、街に捨てられている段ボールが、いままでとまったく違ったものに見えてくる。ワークショップで実際に財布を作ればなおさらだ。