

世界30カ国を旅し、捨てられた段ボールを拾ってクールな財布を作るアーティストが注目されている。不要なものから、大切なものへ。その活動からは、リサイクルの先、“アップサイクル”というテーマも見えてくる。
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東京・渋谷のギャラリーで行われたワークショップ。参加者たちが床に置かれた段ボールの山を真剣な表情で調べている。色鮮やかなもの、シンプルなもの、見覚えのある缶ビールの段ボールも。
「この段ボール選びの時間が一番楽しいんですよね。どこの部分にどの柄や色がくるか、考えて選んでください」
段ボールアーティストの島津冬樹さん(30)が楽しそうに声をかける。参加者たちは島津さんの指導で、この段ボールからペンケースや財布を作るのだ。
島津さんは段ボールの魅力に「取り憑かれた」アーティストだ。段ボールが好きすぎて、段ボールアーティストになるために会社を辞めた。日本各地や世界中を歩き、捨てられた段ボールを拾っては財布を作る。
段ボール製といえども、機能性は革製の長財布と遜色ない。札入れスペースやカード入れがついた「ちゃんとした財布」だ(失礼!)。作品は国立新美術館(東京都港区)のミュージアムショップにも置かれている。ベーシックな長財布が1万800円。名刺入れが3780円。
不要なものを、価値あるものに生まれ変わらせる。さらにその技術をワークショップで提供し、多くの人と分かち合う。島津さんの活動はリサイクルやサステナブル(持続可能)、そしてさらに時代の先を行く「アップサイクル」の実践例として、海外のメディアにも取り上げられるなど、注目度が高い。
だが、もともと「エコ」や「アート」を考えていたわけじゃない。はじまりは美術大学2年のとき。財布が壊れ、買い替えるにもお金がない。たまたま近所のスーパーで拾ったお気に入りの段ボールがあった。「よし、これで財布を作ってみよう」
作ってみたら、意外に丈夫で長持ちする。「けっこう使えるじゃん」と思った。