■自分の弱さを乗り越えようとするアオイ
厳しいアオイ、優しいアオイ。彼女の内面は複雑さに満ちている。「姉がわり」としてアオイを見守る胡蝶しのぶの回想シーンで、アオイの表情はいつも心細げで幼い女の子のようだ。しのぶだけはアオイの苦悩をわかっていたのだろう。
アオイたち蝶屋敷で暮らす「妹」を鬼から守ろうとするしのぶの思いに応えるためにも、アオイは自分の弱い心にフタをして、剣士たちの看護とリハビリに力を尽くした。それでも、彼女は剣士として戦えない自分を恥じる。
「選別でも運良く生き残っただけ その後は恐ろしくて 戦いに行けなくなった腰抜けなので」(神崎アオイ/7巻・第53話「君は」)
鬼の戦闘力を目の当たりにした少女が戦えなくなったとして、誰がそれを責めることができるだろうか。自分にも他人にもあれほど厳しい胡蝶しのぶでさえ、アオイに対して、剣士として前線に立つようにうながす様子はまったくない。
アオイの働きぶりは皆から感謝される献身的なもので、一見すると怒りっぽいように見える彼女の言動は、怪我をした隊士たちの回復を心から願うがゆえのものだった。
■アオイの願いと献身
アオイは剣士であることを諦めたのに、鬼の被害をもっとも目にする場所で、仲間たちの残酷な死を見つめながら看護にあたっている。
それは一体なぜか。
アオイの願いは、他の鬼殺隊隊士たちと同じく、“みんなに”平凡な日常が返ってくることだからだ。失ったアオイの家族は戻ってこないが、彼女は仲間たちの「生」を心から願う。
日々のアオイの寂しさがよくわかるエピソードが残されている。自分と同じく蝶屋敷で暮らすカナヲが名字を決める時、アオイは自分の名字である「神崎」を勧め「これは?これじゃなくていいの?ほんとにいいの!?」と熱心に言う場面があった。作者の吾峠呼世晴氏は「姉妹が欲しかったアオイは 自分の苗字を激推しして 横からめっちゃ口出ししています」と言葉を添えているが、この時のアオイの必死さから、彼女の胸の内が伝わってくる。