藤井誠二(ふじい・せいじ)/1965年、愛知県生まれ。ノンフィクションライター。愛知淑徳大学非常勤講師。著書に『人を殺してみたかった』『少年に奪われた人生』『コリアンサッカーブルース』など(撮影/今村拓馬)
藤井誠二(ふじい・せいじ)/1965年、愛知県生まれ。ノンフィクションライター。愛知淑徳大学非常勤講師。著書に『人を殺してみたかった』『少年に奪われた人生』『コリアンサッカーブルース』など(撮影/今村拓馬)
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『沖縄アンダーグラウンド 売春街を生きた者たち』は、沖縄の「特飲街」=売春街の消滅をめぐって、そこに生きた人々の足跡を取材し記録することで沖縄戦後裏面史を浮き彫りにしたルポルタージュだ。著者の藤井誠二さんに、同著に込めた思いを聞く。

*  *  *

<タクシードライバー大城に連れられて、沖縄県宜野湾市にあった通称「真栄原新町」に初めて足を踏み入れたのは、一九九〇年、私が二〇代後半にさしかかった頃だった。/季節は盛夏を過ぎたあたり。街は外部から隔絶された、異様な小宇宙のように私の目には映り、脳裏にその街の光景が焼きつけられた>

「真栄原新町」は沖縄戦後史の一断面を象徴する街であった。そこは特飲街(特殊飲食店街)と呼ばれる売春街であり、2010年前後に官民一体となった「浄化運動」によってゴーストタウンと化す。藤井誠二さんは何度となくこの街に通い詰め、売春に従事する女性たち、風俗店の関係者への取材を積み重ね、沖縄「アンダーグラウンド」の世界、その盛衰史を描き出す。

「真栄原新町って実は米軍普天間基地のすぐ近くなのに、見えなくさせられてきた。浄化運動が起きたのは普天間返還プログラムの跡地利用のからみもあって、沖縄の恥部といわれた負の遺産を『基地もろともなくしてしまおう』ということだったのではと思う。最初はたまたま会ったタクシードライバーが教えてくれましたが、地元メディアですらこの街に関心がなかった。むしろ外から来た人間だから取材できたともいえますね」

「娼婦とヤクザと革命」と題された章に目が引き寄せられた。ここでは、基地で働く人たちの闘争と並行して売春婦たちにインタビューを試みるなど破天荒なドキュメンタリーとして反響を呼んだ映画「モトシンカカランヌー 沖縄エロス外伝」(1971年制作)との邂逅(かいこう)がつづられる。藤井さんは映画で登場したアケミという10代の売春婦のその後の消息を聞いて回るのだ。

「幻の作品と言われて、大阪のライブラリーで観ることができた。映画として衝撃的でしたが、僕は取材のネタ元として観ました。何よりもアケミという女性はどういう人だったのだろうか、どうやったらたどってゆけるかと、時間をかけて人づてに聞いて回ったのですが見つからなかった」

 映画はこのテーマに入れ込むきっかけになった。そして藤井さんは、沖縄の売春の実態に迫り、闇社会の収奪システムを解き明かし、「レイプの軍隊」と沖縄売春史の関係をひもとく。ひたすら「暗い夜の妖しい小宇宙」に身を置き、人から人へ、「この地における生の痕跡を拾い集め」消し去られつつある沖縄の歴史と事実を記録する。それはノンフィクションライター、藤井誠二の「沖縄ノート」である。

(ライター・田沢竜次)

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