「濁った泥水って中身がよく見えないですよね。そこにわざわざ(手を)突っ込むやつがいて、ケガをしたりいろいろなことが起きるけど、結果、新しい情報や価値観が見つかったり、何かが浮かび上がるわけで……。そういうことができない社会になってくると、新しいものって生まれてこないと思うんです。だから、人とは違うことをやったり、人が行かない場所に行ったりする人間がいるかどうかが、その社会が発展していく、広がっていく可能性をどれだけ持っているかを測るバロメーターみたいなものになるんじゃないかと思うんです」

安田さんの思いに呼応するかのように、海外から声を上げた一人のチャレンジャーがいる。大リーグのカブスに所属するダルビッシュ有投手(32)だ。

 ダルビッシュ投手は80万人以上が犠牲になったとされる1994年のルワンダ大虐殺の例をひき、「危険な地域に行って拘束されたのなら自業自得だ!と言っている人たちにはルワンダで起きたことを勉強してみてください。誰も来ないとどうなるかということがよくわかります」などとツイッターにつづり、安田さんの解放を「一人の命が助かったのだから、自分は本当に良かった」と祝福した。

 同様に安田さんを支持する声もあり、安田さんは04年のイラクでの拘束時と比べると「国内の自己責任論はある程度抑えた論調になった」と受け止めている。ただ、こうもこぼす。

「ネットの状況はずいぶん変わりましたけど……」

 ネット上では安田さんに対し、「勝手に戦場に行ったのだから自己責任」といった言葉が浴びせられ、「テロ組織と仲良し」「身代金詐欺」など、悪意に満ちたフェイク情報も飛び交う。安田さんを「プロ人質」と揶揄し、本人の経歴や家族に関する情報をさらけ出すまとめサイトまである。

 安田さんがこれらの声に心を痛め、家族や近所の人に迷惑をかけまいと、帰国後も自宅に帰れず知人宅などを転々としていることは、AERA本誌が前号で伝えた通りだ。(聞き手/編集部・渡辺豪)

AERA 2018年11月26日号より抜粋

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