経団連が打ち出した「就活ルールの廃止」により、「みんな一緒」の就活は終わりを迎えつつある。さらに初任給や学生たちの内定後の過ごし方にも変化が起き始めている。
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平日午後8時。ITベンチャー企業のフロムスクラッチの一室で、21人の内定者たちがメモを取りながら真剣に講師の話を聞いていた。中には遠方からオンラインで参加する人もいる。質問も活発に飛び交う光景は予備校の授業さながらだ。この日の講義は「開発」で、座学と実技で90分。講師を務めるのは同社の現役エンジニアだ。
BtoB(企業間取引)のデータマーケティングの仕組み「b→dash(ビーダッシュ)」を開発、販売する同社は、19年度入社組から、内定者に「特訓」を課すことにした。
もともと、就活ルールに縛られない同社は、大学3年の3月までに内定を出してきた。入社まで1年。時間はたっぷりある。
代表の安部泰洋さん(35)によると、いまは中途採用も売り手市場で、欲しい人材をタイミングよく獲得するのは難しい。ならば新卒から「即戦力」になってもらおうと、内定者研修の導入に踏み切った。
研修の科目は開発、営業、マーケティング、コンサルティング、財務、採用、基礎と多岐にわたる。知識・スキルの定着度を測るテストも毎月1回、土日の2日間、朝9時から午後8時までみっちり行われる。
営業のテストでは自社製品のプレゼンをさせる。開発のテストでは本当に理解しているかを確認するために、担当エンジニアが「5分でこの仕様に変更してください」などのお題を出す。明治大学4年の村上夢さん(23)はプログラミングは初心者だったが特訓を重ね、10月の開発のテストでトップの成績を収めた。
さらにそのテストの合計得点をベースに、初任給が決まるというから驚きだ。研修制度の導入と同時に、同社では一律の初任給も撤廃したのだ。
内定者は男性14人、女性7人。そのうち10人が東大生だ。多くの学生が投資銀行やコンサルティング会社の内定を辞退してきているという。それにしても、最後の学生生活が「内定者特訓」で終わることに抵抗はないのか。
「正直、周りの友人と同じように遊びたいとは思います」と話すのは、東京大学文学部4年の田中克明さん(23)だ。
「でも、目先の楽しさだけではなく、その先にある成長や自己実現のほうが大切だと思うので、苦にならないです」