SNSにはママ友たちのステキな子育ての日常。最先端の習い事情報も次々と舞い込んでくる。「しつけはこうするべき」といった“正解”もあふれる。親たちは情報に振り回され、常に不安だ。子どもに合った自分らしい子育てはどうすればいいのか。
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スマホをスワイプしていた会社員女性(36)の手が止まった。画面に映るのは、女性が住む武蔵小杉(神奈川県川崎市)の近所のママ友のフェイスブックだ。
「夏休みに海外旅行へ行き、子どもが英語を使ってお買い物しました」
7歳の長男の同級生は、海外で「英語が通じた」体験をしてきたのね。うちも幼稚園の頃から英語を習わせているけど、海外経験もさせなきゃ――。焦りが込み上げてくる。
ほかにも、フェイスブックやインスタグラムなどのSNSで、ママ友たちの「子どもが水泳の大会メンバーに選ばれた」「小1から塾へ行かせている」といった投稿を見るたびに「うちもやる」「もっと頑張らせないと」と焦ってしまう。
東京都出身で、結婚を機に8年前、武蔵小杉へ引っ越した。その後続々とタワーマンションが建設され、子育て世代が流入。住みたい街ランキングでも上位に入るエリアになった。近所には教育熱心でアクティブな人が多い。焦らされるばかりだからママ友の投稿はなるべく見ないようにしているが、好きな企業の公式アカウントを見るついでに、ついつい目に入ってしまう。
長男のことで負けられない、と思ってしまう理由は、出産時の体験にある。帝王切開の処置が原因で感染症にかかり、4カ月入院した。その間、授乳も赤ちゃんを抱っこすることもできなかった。産婦人科病棟にいる人たちはみんな幸せそうに見えて、我が子を抱いて授乳室へ向かう産婦を見るたびに「なんで私だけ」と涙が込み上げた。
1歳をすぎて公園デビューしたとき、月齢が近い子のママに息子を「小さい」と言われ、育児を否定されたような気がした。母乳で育てられなかった負い目から、ほかの部分では負けたくない、と思ってしまう。