証言台で、武藤氏は語気を強めた。08年7月31日、東電社内で津波想定を担当する土木調査グループは、長期評価に基づき15.7メートルの津波への対策を示したが、武藤氏は対策にGOサインを出さず、土木学会に検討を依頼した。これについて武藤氏は「経営としては適正な手順」と強調した。

 しかし、会合に出席していた東電社員の供述から、筆者には「適正な手順」とは思えない。

「対策を前提に進んでいるんだと認識していた」
「それまでの状況から、予想していなかった結論に力が抜けた。(会合の)残りの数分の部分は覚えていない」(第5回公判、4月10日)
「想像していなかった」
「(対策工事をしないことについて)それも無いと思っていました」(18回、6月20日)

 東電の決定を聞き、東海第二原発を運転する日本原子力発電の取締役は「こんな先延ばしでいいのか」「なんでこんな判断するんだ」と述べていたと、当時同社に出向していた東電社員は検察官に供述していた。(23回、7月27日)

 指定弁護士の「7月31日の決定は感覚的に『時間稼ぎ』と思っていたのか」という問いに「そうかもしれない」と答えた社員もいた。(8回、4月24日)

 地震本部が予測した津波への対策を進めることは、08年2月の地震対応の会議、3月の常務会、双方に出席した勝俣恒久氏ら東電経営陣が了承していた。津波対応部署のトップだった東電社員が、検察の調べにそう供述していたこともわかった。(24回、9月5日)

 この供述に、武藤氏は強く反発。「どうしてそういう供述をしたのかわからない」と何度も述べた。

 2月の会議で提出された資料には、「1F(福島第一) (津波高さ)7.7メートル以上の通し 詳細評価によってさらに上回る」とあり、対策として、非常用ポンプの機能維持、建屋設置によるポンプ浸水防止、建屋の防水性の向上などが挙げられていた。しかし武藤氏は「読んでない」「記憶にない」と繰り返した。

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