マキタスポーツ/1970年、山梨県生まれ。俳優、著述家、ミュージシャンなど多彩な顔を持つ。スポーツ用品店だった実家の屋号を芸名に。著書に『すべてのJ-POPはパクリである』『一億総ツッコミ時代』ほか。映画「苦役列車」でブルーリボン賞新人賞受賞。新刊に『越境芸人』(東京ニュース通信社)。
マキタスポーツ/1970年、山梨県生まれ。俳優、著述家、ミュージシャンなど多彩な顔を持つ。スポーツ用品店だった実家の屋号を芸名に。著書に『すべてのJ-POPはパクリである』『一億総ツッコミ時代』ほか。映画「苦役列車」でブルーリボン賞新人賞受賞。新刊に『越境芸人』(東京ニュース通信社)。
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イラスト:大嶋奈都子
イラスト:大嶋奈都子

 お笑い芸人のマキタスポーツさんによる「AERA」の連載「おぢ産おぢ消」。俳優やミュージシャンなどマルチな才能を発揮するマキタスポーツさんが、“おじさん視点”で世の中の物事を語ります。

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 貴乃花は我々の好奇心を満たす。もう「好奇心」のことを「貴乃花」と言い換えてもいいぐらいじゃないだろうか。

「人の話を聞かない人」というのは、遠くから見ていると面白く、近くにいると迷惑だ。大多数の世間にとっては、貴乃花は遠い場所にいる存在。だからどうしても面白く映ってしまう。そりゃ相撲ファンは違うだろう。彼らファンは独特の身内意識から、貴乃花にはもっと人、というか協会と上手くやってもらいたいと思っている。落ち着いて考えてみれば、大してファンじゃない私でもそうだとは思う。思うが、どうしても貴乃花は「遠くの人」なのだ。だって貴乃花は自分から“そちら”に行ってしまう。

 思えば、私たちは彼のことを初めから見ていた。というか、見させられてきた。子どもの頃のあの伝説のインタビュー「あどでー、お父さんはでー、づよぐてねー」、衣装ケースを持ってスウェット着で入門していく姿、それを泣きながら見守るお母さん、千代の富士を負かして引退に追いやった場面、宮沢りえさんとの婚約会見→破談、女子アナとの盛大な結婚式、兄弟対決、兄弟喧嘩、洗脳騒動、一家離散、そして引退。あったことを1、2、3と整数に並べてもこれだけのことがあり、それ以外のもっと瑣末(さまつ)な小数点以下の出来事、例えば、実はできちゃった婚だったこと、四股をヒントに景子夫人が考えた謎のエクササイズ「シコアサイズ」のこと、実母が若い芸人と関係をもったとか、息子のタレントデビューとか、憶(おぼ)えておきたくもないけれどこちらは知ってしまっているのである。

 メディアが先か、人が先か、たぶん、物珍しい才能と物珍しい家族という人ありきでメディアが始めた現象だったのだと思うが、途中からはもうどちらかわからなくなった、というより、現在は貴乃花がメディアを引っ張り始めている。松村邦洋さんの貴乃花過ぎる貴乃花のモノマネがあるが、それを本人が追い越したあたりで「これはちょっと凄いことになってるぞ」と思っていた。ワイドショーに愛されてしまった男、否、ワイドショーを愛してしまった男か、いずれにせよそのナチュラルボーン・グレイテスト・ワイドショーマンぶりには目を奪われるしかない。

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