千鳥の大悟
千鳥の大悟
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 3回の特番を経てレギュラー化された『ヤギと大悟』(テレビ東京)は不思議な番組である。タイトルが示す通り、番組の主役となるのは、タンポポ(通称:ポポ、ポポちゃん)という名前のヤギと千鳥の大悟。ヤギを引き連れた大悟が、日本の田舎町を歩き、地元の人々と触れ合いながら、ヤギに雑草を食べさせて人助けをする。

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 人間に飼い慣らされた犬などと違って、ヤギはなかなか言うことを聞かない。でも、この番組ではポポちゃんを無理矢理動かそうとはせずに、好きなようにさせる。草をたくさん食べて、眠くなって寝てしまったら、そこでロケは終わり。無理に予定していた企画をやらせたりはしない。人間ファーストや企画ファーストではなく、世にも珍しい「ヤギファースト」のバラエティ番組なのだ。

 レギュラー初回となる4月7日放送回でも、その方針は変わらなかった。大悟が一般家庭をたずねて、そこに住む90歳の一般人男性と話をしていると、ポポちゃんはその人の下半身を執拗に嗅ぎ回り、股間のところに鼻を近づけた後、せき込んだ。大悟も思わず「志村さんのコントみたい」と漏らした。ポポちゃんはどこまでも自由だった。

 この番組の一般的な見どころは「ヤギを連れた大悟が地元の人々と触れ合う」という点にある。地方ロケにヤギという要素を加えることで、ロケ番組と動物番組の両方の面白さを出すことができる。

 でも、個人的には、この番組で一番興味深いと思ったのは大悟という人間の「圧倒的なコミュニケーション能力の高さ」だった。千鳥は言わずと知れた超人気芸人であり、現在も多数のレギュラー番組を持っている。

 しかし、大悟に関して言えば、コンビ単位での仕事が多く、彼が単体で一般人と向き合う姿を見せるような機会はそれほど多くない。だからこそ、この番組では大悟のそういう部分が印象に残った。

 大悟はどんな一般人にもほとんどタメ口(敬語なし)で気軽に話しかける。でも、相手がそのことに不快感を示したり、嫌がる様子を見せたりすることはほとんどない。大悟は相手が年長者でも子どもでも関係なく、一瞬にして懐に飛び込み、同じ目線で会話をする。

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ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

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ヤギに対しても同じだけの気配りをしている