相手がどう思っているかを素早く察知して、そこに合わせて話を広げたり、お願いをしたり、行動を促したりする。さらに言えば、大悟は共演するヤギに対しても同じだけの気配りをしている。そのすべてがさり気なく自然に行われている。

 コンビで活動しているときには相方のノブが仕切り役を行うため、大悟のそういう側面が表に出てくることはあまりない。でも、『ヤギと大悟』では、大悟の人間的な魅力の部分が際立っている。

 顔は強面、口調は乱暴な岡山弁、煙草を吸いまくり、酒を飲みまくり、遊び歩く昔ながらの芸人像を体現している大悟。でも、そんな彼は人たらしの天才でもある。もともと千鳥はロケの達人として知られていて、一般人を相手にして笑いを作るのも得意だった。また、プライベートでも志村けん氏をはじめとする先輩芸人にも愛されていたし、彼を慕っている「大悟組」と呼ばれる後輩芸人も大勢いる。

 昨今、若者を中心に「コミュ障」「コミュ力」といった言葉がよく使われるようになっていて、コミュニケーション能力の有無が関心の的になっている。しかし、本当の意味でのコミュニケーション能力というのは、そういった言葉で連想されるような上っ面の明るさや小手先の技術ではなく、人間そのものの「器」によって決まるのではないか。

 千鳥の大悟という器は、お笑い界、いや、芸能界でも有数の大きさと深さを持つ。『ヤギと大悟』はそれを存分に味わえる番組なのだ。(お笑い評論家・ラリー遠田)

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ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

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