前出の赤松さんも同様に、漫画村は漫画の大きな可能性を示唆したと考える。
「膨大な漫画村の利用者には、小中学生、高校生も多かった。出版社が漫画村を問題視するのは当然ですが、漫画の将来を考えるなら、集まった読者層にアプローチすべきです」
出版社連合を作り、漫画村の利便性を合法で実現できないか。
「旧作は広告付き無料化が定着するでしょう。新作は動画のネットフリックスのように、定額読み放題が主流になるのでは、と予想しています」
定額読み放題というシステムで、漫画家と出版社に創作活動が成立するだけの収入を約束できるのか。雑誌には定額読み放題が導入されているが、雑誌の収益構造の突破口になりえていない。漫画も厳しいのではないか。
「漫画村レベルのアクセス数があり、それを海外で展開できれば、きっと可能です」
赤松さん自身は、8月から著作者と出版社と素材提供者に収益をもたらす、合法の漫画閲覧プラットフォームの実証実験を「マンガ図書館Z」内でスタートさせた。提携するのは、実業之日本社だ。実業之日本社から刊行された過去作品をユーザーが投稿し、電子化の可否を著作者に確認する。OKが出れば無料公開し、広告収入の10%を投稿者、10%を出版社、80%を漫画家に還元する。読者投稿を無料公開するのは漫画村と同じだが、収益構造と目的が違う。
「出版社は投資ゼロで電子化でき、お金も入る。出版社が保存していない貴重な漫画をデータとして出版社に渡すこともできます」
ゼロだった漫画家の取り分も年に数万円になる。少額に思えるかもしれないが、収益が発生すること自体に価値がある。今後は、絶版の旧作から新作までを網羅し、新作もオフィシャルに購入できる、究極の電子書籍サイトを目指すという。
「フキダシ内の自動翻訳も約50カ国語でやってきたから、海外展開も見据えたい。すべての漫画作品を全世界で検索対象にするのが夢です。ぼくは漫画家だから、漫画家の味方。漫画家の利益を最大化したいんです」
電子でヒットした旧作は、出版社や取次に紹介し、「単行本の復刻を狙う」と赤松さんは言う。
「やっぱり紙はロマンですから」
(編集部・熊澤志保)
※AERA 2018年9月17日号