新作が出続け、否応なしに旧作は埋もれていく。日本漫画家協会の理事も務める漫画家、赤松健さん(50)は、無料で絶版漫画が読めるサイト「マンガ図書館Z」を運営するJコミックテラス取締役会長も務める。「マンガ図書館Z」は広告をつけて無料閲覧を可能にし、利益を著作者に還元する。現行の漫画は、出版社が守ってくれる。庇護者のいない絶版漫画を海賊版から救い、著作者である漫画家に利益を還元したい、と2011年に起業した。
「ぼく自身、古い漫画作品が好きでコレクターです。面白い旧作を多くの人に読んで知ってもらい、その漫画家のいまに結び付ける流れを漫画家主導で作りたいと思ったんです」
狙い通り、無料の引力は大きく、現在はベテラン作家のヒット作品も了解を得て多数掲載している。自身の『ラブひな』、藤沢とおるさんの『艶姿純情BOY』、相原コージさんの『よりぬき かってにシロクマ』、八神健さんの『密・リターンズ!』、いずれも一世を風靡した作品だ。
しかし、漫画の無料閲覧化は、新作にとっては壁が高い。漫画家への正当な報酬や制作費を確保できるのか。
今年、違法にアップロードされた漫画を無料で読める海賊版サイト「漫画村」をめぐり、大騒動が起きた。サイトの人気は口コミで広がり、1月には月間利用者数が約9892万人、国内サイトランキングでは31位を記録。政府が対策に乗り出し、4月にはアクセス不可となったが、その規模と影響力は日本漫画界を震撼させた。
閉鎖前、高校生の娘から話を聞いて、サイトを覗いた母親(41)は、気づけば話題の少女漫画を全巻読破。「あれば読んでしまうのはわかる」と納得した。
「よくないとはわかっていても、子どもはお金がない。サイトには『違法じゃないから大丈夫』的なことも書いてあって、ハマった気持ちはわかります」
多くの読み手にとって、漫画は決して安くない。クリエーターエージェンシーのコルク代表で編集者の佐渡島庸平さん(39)は、「確かに、漫画の時間単価は高い」と認める。他国と比べて高いと言われる映画でも、2時間で1800円だが、漫画を2時間で5冊読んだら約3千円だ。
「しかし、漫画村騒動が明らかにしたことは、漫画が勢いのある圧倒的なコンテンツだということ。すでに投資家たちの間には、漫画を映像の次の可能性のある投資先とみる動きが生まれています」(佐渡島さん)