宮川紗江選手の会見は弁護士会館で行われた。パワハラを巡ってはこれまで泣き寝入りしてきた選手も、訴えるケースが増えている (c)朝日新聞社
宮川紗江選手の会見は弁護士会館で行われた。パワハラを巡ってはこれまで泣き寝入りしてきた選手も、訴えるケースが増えている (c)朝日新聞社
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スポーツ界を巡るパワハラや体罰などの問題(AERA 2018年9月10日号より)
スポーツ界を巡るパワハラや体罰などの問題(AERA 2018年9月10日号より)

 体操のトップ選手が協会幹部のパワハラを告発した。問題は深刻だが、昨今アスリートが声を上げられるようになったことには、背景がある。

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 競技中とは違い、真っ黒のスーツに身を包み、決意を秘めた表情の体操女子リオデジャネイロ五輪代表、宮川紗江選手(18)。会見で、日本体操協会の塚原光男副会長(70)と塚原千恵子・女子強化本部長(71)からパワハラを受けたと告発した。

 8月15日、協会は宮川選手への暴力行為を理由に、同選手の所属チームのコーチだった速見佑斗氏(34)を無期限登録抹消処分にした。宮川選手は暴力をかつて受けたことは認めたうえで、「速見コーチと一緒に東京五輪で金メダルを取るのが夢」と、処分軽減を求めた。パワハラがあったと訴えたのは、その速見氏への処分を巡ってだ。

 宮川選手によると、「まるで誘導尋問」のように「あったんでしょ?」と暴力を認定するように塚原夫妻からうながされたという。さらに「あのコーチはダメ」「だからあなたは伸びない」と速見氏への非難が続いたうえ、宮川選手が家族とともに速見氏を信頼している旨を伝えると「家族もどうかしている。宗教みたい」と非難されたという。「五輪に出られなくなるわよ」と脅されたともいうのだ。

 コーチから暴力を受けた被害選手が、自身を守る立場にある協会幹部のパワハラを訴えるという異常事態。スポーツ界では、レスリングやボクシングでも、競技団体幹部によるパワハラが最近発覚している。

 どれも、長い間隠されていた問題が表出していると見られる。なぜ今なのか。スポーツ分野でのコンプライアンスの推進に取り組む弁護士、宗像雄さんは「レスリングの伊調馨さんの問題が流れをつくった」と見る。

 今年2月、五輪4連覇を果たし、国民栄誉賞も受賞した伊調馨選手(34)の関係者が、日本レスリング協会の栄和人・選手強化本部長から伊調選手へのパワハラを訴えていたことが明らかに。後に栄氏は解任された。

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