倉田タカシ(くらた・たかし)/1971年、埼玉県生まれ。SFと言葉遊びを愛好する文筆家・漫画家・イラストレーター。2015年、第2回ハヤカワSFコンテスト最終候補作の『母になる、石の礫で』で長編デビュー(撮影/倉田貴志)
倉田タカシ(くらた・たかし)/1971年、埼玉県生まれ。SFと言葉遊びを愛好する文筆家・漫画家・イラストレーター。2015年、第2回ハヤカワSFコンテスト最終候補作の『母になる、石の礫で』で長編デビュー(撮影/倉田貴志)

 もしもうなぎが絶滅してしまったら、私たちはどうするのだろうか? 『うなぎばか』は、「うなぎエンタメ小説」5編を収録した倉田タカシさんの新作だ。今回は倉田さんに、同著に込めた思いを聞く。

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「うなぎ絶滅後の人類」を描いた連作短編集だ。種の絶滅というテーマから、シリアスな問いをはらみつつ、絶妙のユーモアで物語が展開する。

「ツイッターにいろいろなアイデアをネタとして投稿しているんですが、それがきっかけになりました。頭の体操的に考えているうちに、これは連作短編が書けるのではないか、と思ったんです」

 現実でもうなぎをめぐる状況は深刻だ。2014年、国際自然保護連合(IUCN)はニホンウナギを絶滅危惧種に指定。だが具体的な対策はないまま。今年はニホンウナギの稚魚であるシラスウナギの漁獲量が前年の4割減という歴史的な不漁を記録した。

「冗談のような気持ちで書き始めたのですが、今やうなぎそのものが社会的なテーマですから、真面目にならざるを得なくなりました。たとえば命ある生き物を食べるとはどういうことなのか。漁業で生計を立てている立場の人からすれば、漁獲量の制限は生活に関わります。かといって人間の食べたいという欲望から、ひとつの種を絶滅させてしまってよいのか。テーマとして選んだからには責任をとって、うなぎから想起される多様な側面を拾うべきだし、書いているうちに無責任ではいられないという気持ちになってきました」

 表題作の「うなぎばか」は、かつてのうなぎ専門店が持つ「秘伝のたれ」をめぐる騒動。「うなぎロボ、海をゆく」は魚を守るのが仕事のうなぎ型ロボットの特別な一日を描く。

「一番苦労したのが『うなぎロボ~』です。社会問題と関係が深い話ですが、あくまでエンターテインメントにしたかった。自分の立場をどこまで表明すべきか、モヤモヤを抱えながら書きました」

 一方、SFらしいアイデアを駆使したのが「源内にお願い」だ。タイムマシンを手に入れた2人の青年が、「土用の丑の日」の宣伝をやめるよう、平賀源内に頼みに行くが……。

「うなぎについて考えるなら、源内ははずせませんからね(笑)。僕自身がうなぎの絶滅について意識しはじめたのは13年頃です。複雑な利害関係や国際的な制度の問題があるにしても、21世紀にもなって身近な種を絶滅させそうになっているなんて、ずいぶん愚かなことだなあ、と」

 予想外だったのは読者の感想だ。

「読んだあとはうなぎを控えてもらうつもりだったのですが、みんな食べたくなるみたいなんです。でも専門店で食べることは文化の継承につながるから、いいかな」

(ライター・矢内裕子)

※AERA 2018年8月27日号