母校の入試不正に怒りをあらわにする香山さん。かつての同級生たちも皆「まさか」と驚いていたという。大学トップの人間は事の重大さを理解しているのか、と懸念を示す(撮影/写真部・大野洋介)
母校の入試不正に怒りをあらわにする香山さん。かつての同級生たちも皆「まさか」と驚いていたという。大学トップの人間は事の重大さを理解しているのか、と懸念を示す(撮影/写真部・大野洋介)
この記事の写真をすべて見る

 何よりも公平さが重視されるべき入学試験で女性を一律減点していた東京医大。卒業生の香山リカ氏が、母校に巣くう深すぎる病巣を厳しく指摘した。

*  *  *

 母校が女性の合格者を意図的に抑えていると知ったとき、怒りを通り越して悲しくなりました。最近の東京医大は結婚や出産、育児や介護などでいったん臨床の現場を離れた女性医師を支援するプログラムを設けるなど、女性医師を支援しているとばかり思っていました。ところが、まったく矛盾していることをしていたわけです。

 私が東京医大に入学したのは1980年。だんだん医師になる女性が増えたと感じたころでした。医学部を受験する女性はまだ少なく、入試で男女比を調整する必要もなかったと思います。学生時代も、教授や男子学生たちから女性軽視を感じたことはありません。

 ただ、就職活動で、ある診療科から「女性お断り」とはっきり言われたという話を聞きました。理由は先入観だったと思います。今まで女性を採用したことがなく女性医師が来てもどう扱っていいかわからないとか、女性にこんな大変な仕事をさせたくないという、女性軽視の裏返しで間違った親心のようなものもあったのだと思います。

「白い巨塔」でも描かれたように、医局があった時代の医師の世界は、教授を頂点とした閉ざされた場所でした。そこでは男同士がツーカーで物事を進め、そのような場所に理性的な発言をする女性が入るのを嫌っていました。2000年の医師法改正以降、医局制度は崩壊しましたが、東京医大ではいまだに昔ながらの仲間意識から抜け出していない感じがします。

 今回の性別による得点調整は、「女性は年齢を重ねると医師としてのアクティビティーが下がる」というのが理由といわれています。だけど、二十数人いた私の同級生の女性でリタイアしている人は一人もいません。一度は結婚や出産などを機に辞めた人はいるかもしれませんが、今は全員忙しく働いています。

次のページ