入試不正があった東京医科大学では女子の合格率が極めて低い。奇妙な数字は、他大学の入試結果にも散見される。
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「まったく予想外でした。まさか、東京医大とは」
医学部・歯学部専門予備校・メルリックス学院学院長の田尻友久さんは驚きを隠さない。東京医科大学が一般入試で、女子生徒に一律得点調整を行っていた事件。2次試験の小論文(100点満点)の得点にまず0.8をかけて80点満点とし、現役と1~2浪男子には20点、3浪男子には10点加点し、女子と4浪以上の男子には加点がなかった。調整は遅くとも2006年度入試から行われていたとみられている。
予備校業界では、以前から「医学部入試は女子や多浪が不利」とささやかれてきた。明るみに出た東京医大以外はどうなのか。文部科学省は全国81の医学部医学科を対象に緊急調査を始めた。採点や合否判定の基準のほか、今回問題になった性別や年齢による差がなかったか回答を求めている。大学を対象としたこのような大がかりな調査は初めてで、8月24日までに回収し結果を公表する予定だ。
表は18年度の志願者と合格者に占める女子の比率(大学通信調べ)をもとに、女子の「合格しにくさ」を計算したものだ。数値が低いほど、女子の合格率が低い。18年度の東京医大を見ると、女子志願者39.2%に対して合格者は15.9%。ただし極端に低いのはこの年だけで、例年は30~40%で推移している。
表からは、女子の志願者に対して合格者の割合が低い大学は他にもあることがわかる。複数の予備校によると、平均的に見て、医学部志望の男女に、成績の優劣はないという。ではなぜ、と疑問が残る。そもそも数値を公表していない大学も多数あり、文科省の調査結果が待たれる。
田尻さんによると、不正の背景には医学部入試のわかりにくさがあるという。多くの私大医学部の一般入試では、学科による1次試験で合格した生徒が、小論文と面接を課す2次試験に進む。1次試験の得点開示は不合格の生徒にだけ応じている私大が大半で、実施していない大学もある。2次試験の得点開示を行っている大学はない。
「1次、2次試験とも配点がわからないので自己採点のしようがない。東京医大も不正問題が発覚する過程で2次の配点が判明しただけ。もっと入試の透明度を高めて、受験生にも自身の得点がわかりやすいようにするべきです」(田尻さん)
大学が女性受験者を冷遇するもう一つの背景が、経営上の判断だ。医療ガバナンス研究所の上昌広理事長は「大学医学部では国家試験に合格した卒業生の多くが大学やグループの病院で働く。入学試験は、採用試験の意味合いが強い」と説明する。
准教授、教授といったポストを目指し、比較的低賃金でも働いてくれる「生え抜き」の医師は、大学経営にとって大きなプラス要因だ。結婚や出産を機に一線を退いたり、グループ外の病院に移ったりする人も多い女性を、大学の経営者が敬遠している可能性があるという。
女性医師を応援するWEBサイト「joy,net」が8月上旬、東京医大の入試不正についてのアンケートを行ったところ、「理解できる」「ある程度は理解できる」の合計が65%に達し、「理解できない」「あまり理解できない」の合計の35%を上回った。回答者は医師103人で、ほとんどが女性だった。
joy.net編集長の岡部聡子さんは「本来なら憤ってもいいのに、過酷な労働に疲弊し、あきらめにも似た気持ちがあるのではないか」と嘆く。(ライター・柿崎明子、編集部・熊澤志保)
※AERA 2018年8月27日号