2体の遺骨は、父親と長女のどちらの自宅からも近い、都内の樹木葬墓地に改葬される。「自分もそこに入れるから安心です」。そうこぼす父親の傍らで、長女が言葉を継いだ。
「私は嫁ぎ先の墓に入りますから、こちら(小平霊園)のお墓はお父さんが入って終わりになる予定でした。なので、ここを閉めて改葬することにしたんです。私のほうから勧めました」
遺族を見送る松本代表は汗びっしょり、作業服は泥まみれだ。この日のために高圧洗浄機で墓回りを清掃し、遺骨を取り出すのに必要な改葬許可証などの取得も代行した。
「都内の公営墓地はどこも高倍率ですから、墓じまいの相談を受けると、本当に返さないといけないんですか、と必ず確認しています。考え直す方はほとんどいませんけどね」(松本代表)
住まいの近くに墓を移したい人が、墓の引っ越しである「改葬」に踏み切る事例が増えている。厚生労働省の調査によると、全国の改葬件数は2016年度で9万7317件。近年、増加傾向にある。
一方、承継者がおらず墓を処分する「墓じまい」や、改葬の形態を取りながらも遺骨を散骨したり、一定の安置期間を経て合葬墓に移したりする、「実質的な墓じまい」ともいえるケースも目立つ。
全国で改葬が最も多いのは東京都だ。都立霊園は条例で、5年以上管理料を滞納すると使用許可の取り消し対象となるため、墓のスクラップ・アンド・ビルドが進みやすい。都内の墓のニーズは高く、税金を投入して無縁墓を更地にしてもすぐに借り手(契約者)が見つかるため、税金を回収できるのだ。
しかし、過疎化が進む地方では、長年放置された墓を更地にしても、新たな墓地の契約者の見通しが立たない。これでは税金を回収できなくなるため、無縁墓は荒れたまま放置される。この状況だと、承継者がいるにもかかわらず管理料を長期間滞納するモラルハザードに対しても有効な手立てを打てなくなる。
第一生命経済研究所の小谷みどり研究員は、こう強調する。