コートはフットサルとほぼ同じ広さで、転がると音が出るボールの音や敵陣ゴール裏に立つ健常者「ガイド(コーラー)」、キーパーや監督の声の情報などを頼りにゴールを狙う。コミュニケーションが鍵を握るため、それを生かした研修が社内のコミュニケーションの改善、チームビルディングのヒントになると好評で、12年から始めた研修は年々実施企業が増え、17年度は100件、3476人が参加した。

 ANAもその一つ。これまで24回実施し、750人が参加している。同社の久田和紀子さん(26)は研修の意義をこう語る。

「私たちは『すべてのひとに優しい空』という目標のもと、誰もが暮らしやすい共生社会をリードするエアライングループを目指しています。この研修を通じて、社員の心のバリアフリーを一層進めていきます」

 参加者はまずアイマスクをつけてまっすぐ歩く。頼りは6、7メートル先にいる同僚の手拍子の音だ。わずか数歩だが、全く別の方向に進む人や、怖くて足が前に出ない人もいる。2回目は手拍子を声掛けに変更。「そのまままっすぐ」「もう半分きたよ」「あと3歩」などと声を掛けられると、さっきよりもスムーズに足が出て、笑顔も増えた。

 伊奈山瑛子(あきこ)さん(25)は言う。

「目が見えないと孤立感がすごい。声がこんなにも安心するものなんだと初めて知りました」

 次に、アイマスクをした人と外した人がペアになって、講師がとった動きと同じ動きをする課題に挑戦。左腕を下から抱え込んで体のほうに引き寄せるポーズなのだが、「腕をクロスする」と言うと、頭の上で十字をつくる人がいたりして、変な格好に笑いが起きる。情報の8割以上は視覚から入るというが、日頃、いかに目から入ってくる情報に頼っているかを思い知らされる光景だ。

 ブラインドサッカー日本代表の寺西一さん(28)はこうアドバイスする。

「みなさん、どこで何を、という説明を忘れてしまいがちです。どうやったら相手に正しく伝わるかを考えることが大事です」

 その後5人ずつチームをつくり、4人が正方形の角に立って音が出るボールを回し、残り1人はアイマスクをして中央に立ってパスのたびにボールにタッチするゲームで、30秒以内のタッチの回数を競う。

 1ゲームごとに作戦会議をして改善。3回目が終了した時点で最高回数は11回だったが、日本ブラインドサッカー協会の原田亮さん(30)が「小学生は20回いきますよ」と目標を提示すると、2チームが15回に。最終6ゲーム目では、21回を記録したチームもあった。

 参加した丸岡博(とおる)さん(47)は、

「たくさん話すことや具体的な目標を設定することで、チームが変わり、動けるフィールドも広がることに気づけました」

 さまざまな気づきを与えてくれるパラスポーツ。あなたも体験してみませんか。(編集部・深澤友紀)

AERA 2018年8月6日号より抜粋