病院の虐待対応チームはSBS(乳幼児揺さぶられ症候群)を疑い、親の説明では起きえないと児相に伝え、乳児は一時保護された。
「ケガの理由を親が説明でき、再発防止策が講じられるまで、家に戻すべきではない、というのが私の見解でした」(奥山さん)
だが、ケガの理由が不明のまま、児相の判断により、乳児は家庭に帰されていた。その子が虐待死したと警察から連絡があったのは、数カ月後のことだ。
「ケガの程度や親の養育スキル、育てる意志以前に、『子どもが何をされたか』を注視すべきです。命の危険につながる行為なら、防ぐ手段がない限り、同じ環境には帰さない。この原則を守らないなら、今後も虐待死はなくならないでしょう」(同)
虐待の水際にも、虐待を熟知し、リスクを判断するプロが必要だと奥山さんは考えている。
いっぽうで、現場は複雑だ。ある児相関係者は、「虐待は、エスカレートしていくことも、突如重篤な事態に陥ってしまうケースもある」と言う。一時保護か施設入所かのシビアな判断も含め、その後の子どもと親の支援や、暮らしも考えていかなければならない。
「けれども、支援を意図しても、児相が関わること自体、多くの家庭にとってはストレスになりえます」(児相関係者)
出頭要請や立ち入り調査をすれば、反発は大きい。その狭間で、職員たちが時間外労働も厭わず対応している現状がある。
専門家ではない私たちに、できることはあるか。前出の山田さんと奥山さんは口を揃える。
「おかしいと思ったら、迷わず通告してください。通告は、親の糾弾ではなく、『支援や保護を必要としている子どもがいますよ』という連絡です」
子どもの虐待防止センター理事長の松田博雄さんは言う。
「虐待する親は、自分も被虐待歴があることが多い。虐待を予防するには、地域で地道な子育て支援を行うことです」
虐待から子どもを守り、家庭を支援する仕組みは、社会でつくっていくほかない。(編集部・熊澤志保)
※AERA 2018年6月25日号