『サラダ記念日』で日常の言葉で短歌を詠むおもしろさを広めた俵万智さん。子どもが生まれてからは、子どもの成長を歌にした歌集も大ヒットしています。歌にたびたび登場する一人息子も今は大学生。子育てを終えた俵さんに、わが子の言葉の成長と、子育て短歌の魅力についてお聞きしました。※後半<歌人・俵万智が、わが子の「言葉」を育てた方法とは 「1時間ゲームしたかったら1時間本を読む、という約束でした」>に続く
【写真】俵万智さんが息子に毎日書いていた自筆のハガキはこちら(本人提供)「それ、オカンの芸風」息子の言葉に救われて
――俵さんの新刊『生きる言葉』(新潮新書)には、息子さんの言葉の成長も描かれています。「あとがき」に書かれている、大学生になった息子さんの言葉への理解の深さに驚かされました。
親バカ炸裂で恐縮なのですが(笑)、コミュニケーション力は本当に育ったなと感じます。
「あとがき」にも書きましたが、私の父が亡くなる少し前に、母が書斎の整理を始めて、父が大事にしていた囲碁の本を全部捨ててしまったんです。「どうして?」と聞くと「もう本を読むなんて、絶対無理でしょ」って。
私は母の言葉をすごく冷たく感じて、「まだ亡くなったわけでもないのにひどい!」って腹が立ってしまったんです。そのことを息子に電話でグチったら、こう言われました。
「ばあばは何かしら、じいじに関わることをしたり、考えたりしたかったんじゃないの?」って。ハッとしました。
「絶対無理でしょ」っていう一見冷たく感じる言葉にも、いろんな心が貼りついているのだと、息子の言葉で気づかされました。
――モヤモヤしていることを、適切な言葉に変えて表現できるって素敵ですね。
このまえも息子に救われました。ある評論で「俵万智の短歌には批判精神が足りない」みたいに書かれたんです。落ち込んでいたら息子に「でもそれ、オカンの芸風じゃん」って言われて、笑ってしまいました。芸風かぁ、だったらしょうがないか、って。
息子は大学で国語学を学んでいるんですが、うらやましくてしかたがないです。私が子どもだった頃、父はたびたび「いいなぁ、思いっきり学べて」と言っていました。今、同じことを私が息子に言っています(笑)。
次のページへ息子を連れて石垣島に移住