シンガポールで6月12日に開かれた史上初の米朝首脳会談で、最も目を引いたのは、トランプ大統領と金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長のスキンシップだった。
「お会いできて光栄です。この場所に来られて、うれしい」
両国旗の前に敷かれた赤じゅうたんの上で、両氏が笑顔で握手し、トランプ氏がそう話して始まった首脳会談では終始、2人の距離感は極めて近かった。手を差し出して握手を繰り返すトランプ氏は、会場となったホテル内を移動中、頻繁に金氏の背中に手を置き、エスコートを怠らなかった。金氏もトランプ氏の左腕に手を置き、ほほ笑みながら立ち話をした。その笑顔は会談中ずっと消えなかった。
72歳と34歳。年が親子ほど離れた2人だが、初会談とは思えない親密さを見せた。生まれたときからお山の大将だった2人は、自分中心の人生を生きてきた自己愛の人だ。似た者同士そりが合う。スキンシップは政治ショーの演出というより、むしろ相手に対して自然に出てきた純粋な好意の表れのように見えた。とりわけ金氏に対するトランプ氏の評価は、恐ろしく良好だった。記者会見での発言がそれを物語っている。
「彼にはとても才能がある。極めて困難な状況下、26歳で権力を握り、タフに走り続けてきた。その年齢で同じことができるのは1万人に1人もいない」
強い権限を持つ独善的なリーダーである2人が求め合ったからこそ実現した会談だった。「完全な非核化」への意思を確認しただけの北朝鮮に、体制保証まで約束したトランプ氏。記者会見では、米韓合同軍事演習を「挑発的」として、独断で中止を明言した。完全な非核化の実効性の担保が何も記されていない共同声明を読む限り、米国が譲歩したとの印象が否めない。歴史的な首脳会談に値するほどの成果はなく、通常であれば開催を見送られるレベルだ。
それを分かっていたから一度は中止を宣言したトランプ氏が、会談を予定通りに実施したのにはわけがある。決して安泰ではない自身の米国内での「体制保証」の担保として、朝鮮半島和平で指導力を発揮することが力になると考えてのことだ。