同様の問題意識を持つプロ野球選手も出てきた。侍ジャパンの主砲・横浜DeNAベイスターズの筒香嘉智選手(26)だ。今年1月、中学時代を過ごした少年野球チーム・堺ビッグボーイズ(堺BB、大阪府)の野球体験会に参加。記者たちを前に自らこう切り出した。
「球界は子どもたちの野球人口の減少にもっと真剣に取り組むべき。勝利至上主義からの脱却が必要だ」
話題を呼んだ、この“勇気ある発言”の背景には、筒香選手がドミニカ共和国で見た子どもたちの情景がある。日本では、子どもたちは指導にあたる大人の顔色を見てプレーをするのに対し、ドミニカでは大人は指図をしない。子どもたちは自分の頭で考え、のびのびとプレーし、失敗を恐れずダイナミックにチャレンジする。それがプロになって大きな差として表れる。
「ドミニカ共和国は米大リーグに優秀な選手を多く輩出している。そのベースにあるのが子ども時代の過ごし方です」
同国の野球に詳しい堺BBの阪長友仁コーチ(37)はそう説明する。そこで最も大事にされているのは「野球を好きになること」──。それが全ての礎(いしずえ)になる。
堺BBも9年前、指導方針を大きく転換した。勝利第一の詰め込みから、子どもの長期的な成長を大事にする見守り重視へ。練習時間を短くし、投球制限を設け、野球以外のスポーツも練習に取り入れた。代表の瀬野竜之介さん(48)は言う。
「戦績は落ちましたが、入部希望者は増え、遠くから通ってくる子もいる。勝たないのになぜ子どもがたくさん集まるのか。他チームから不思議がられます」
半日の練習が終わったあと「もっと野球をやりたい」という声を受け、小学校低学年には空きスペースで自由に遊ぶ時間を設けた。すると子どもたちは独自にルールを考え、自分たちで工夫をしだした。かつての空き地の野球遊びと変わらぬ情景がそこにある。
「夢中で楽しんでいる。それが大事なんです」(阪長コーチ)
野球離れが進むなか、あらためて取り戻すべきものは何なのか。見つめ直す好機が来ている。(編集部・石田かおる)
※AERA 6月11日号より抜粋