そんな長女がどうも最近「芸能人になりたい」と思っている風なのだ。自分に「2世タレントの親」としての通過儀礼がやってくるなんて想像もしていなかった。
問題は、実際に「芸能人になりたい」と言われた時のこと。断れる気がしない。だってそうだろう、彼女は「私の子供」という永久条約を手にしている。この言わば、“わがままのタコ殴り権”が、後々のモンスターを生むことだって分かっている。でも、可愛いのだ。それが問題なのである。
彼女が生まれたばかりの頃私には仕事がなかった。学校へ行くようになって、周りから「お前の父ちゃんテレビ出てないじゃん!」とか言われたことだってあったはず。でも彼女の口からはそんな愚痴を聞いたこともない。やがて、仕事に恵まれ出し、入院部屋や家のグレード、私立校受験、車、旅行などなど生活は激変。彼女なりに実感したはずである。彼女には、次女が平気で高いものを「買って!」とか言うような無邪気さがない。私が招いた貧しさが無邪気さを奪い、彼女を遠慮深くさせた。しかし、無の状態から「マキタスポーツの娘さん?」と言われる機会を得た経験は、次女以下、他の子供たちにはないことなのである。彼女は前人未到の「マキタスポーツの娘」なのだ。
過日、思い切って訊いてみた。
「将来、何になりたいのか」
「……まだ考えていない」
「もう16歳なんだし、そろそろ将来のことを考えていた方がいい」
「安心して欲しい……芸能人にはならない」
絶対嘘なのである。絶対、芸能人になりたいはずなのだ。
※AERA 2018年5月28日号