

史上初となるはずだった米朝首脳会談の中止をトランプ米政権が発表した。悲観するのはまだ早い。実は交渉はまだ始まったばかりだ。
一方的にはしごを外すのが得意で独善的なトランプ米政権。一方的に約束を破るのが得意で独裁的な北朝鮮。似たもの同士だけに、米朝首脳会談が中止となる予感は常にあった。
ただ、これは、トランプ流に言えば、首脳会談の開催を「ディール(取引)」の材料として、最大の成果を獲得するための駆け引きそのもの。最大の成果を得る具体的な方法が、米朝間で異なり、その溝が埋められなかったから、首脳会談のカードをいったん引っ込める。そのカード自体を捨てたわけでは全くない。読み間違えがあれば、一気に対立激化へ急展開しかねない危険なディールだが、米朝双方はまだ打つ手があると踏んでいる。
キツネとタヌキの化かし合いなのだ。
今年になって強硬姿勢から融和路線に態度を一転させた北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)・朝鮮労働党委員長による突然の申し入れを、トランプ米大統領が即断で受け入れて電撃的に決まった史上初の米朝首脳会談は、中止の決定も唐突だった。
6月12日にシンガポールで開催予定だった米朝首脳会談の中止が明らかになったのは、ワシントンのある米国東部時間で5月24日午前9時46分(日本時間同午後10時46分)。ホワイトハウスが全文公開した、トランプ大統領から金委員長に宛てた1枚の書簡だった。
「最近のあなたの声明で示された激しい怒りやむき出しの敵意」を理由に、首脳会談の開催は「現時点で適切ではない」と断じる内容。首脳会談に向けてここ数日繰り広げられていた、双方の姿勢を批判し合う米朝間の言葉の応酬を受けたものだ。
ただ、相手の感情を逆なでするようないつものトランプ節は封印され、極めて丁寧な言葉遣いで、慎重に言葉を選んだ跡がうかがえる。米CNNのキャスターが「嫌なことを言われたからという子供のけんかのようなことを理由にしているのに、書簡では全くトランプ大統領らしくない言葉遣いになっている。隠されたメッセージがあるのではないか」といぶかったほどだ。