書簡でトランプ大統領は、北朝鮮が拘束していた米国人3人を金委員長が5月9日に解放したことにわざわざ触れ、「素晴らしい意思表示でとても感謝している」とも書いた。書簡の締めくくりはこうだ。

「この最も重要な首脳会談に向けて、もし、あなたが考え方を改めるなら、遠慮なく電話や手紙をください。世界、とりわけ北朝鮮は、恒久平和や偉大な繁栄、裕福さを得る素晴らしい機会を失った。失われた機会は歴史上、非常に悲しい時である」

 5月8日にイランとの核合意を一方的に離脱した際の国民向け演説で、イランを徹底的にののしったトランプ大統領とは別人のようだった。

 書簡を発表した数時間後、トランプ大統領はテレビ演説で、米朝首脳会談の中止を正式に宣言した。

 そのうえで、「(朝鮮半島の)明るい未来は核兵器の脅威が取り除かれた時のみ可能であって、それ以外に道はない」と強調。北朝鮮に対する「最強の経済制裁」をはじめとする「最高レベルの圧力」を実施し、「世界最強の米軍の準備はできている」として、「今後、あらゆる事態が想定される」と訴えた。こうしたことについて日韓両国からも理解を得たと明かした。

 書簡よりも強いトーンだったが、それでも「金正恩氏が建設的な対話を選択する時を私は待っている」と述べ、将来的な米朝首脳会談の可能性を完全に否定することはしなかった。

 トランプ米政権が首脳会談の中止を公表する数時間前、北朝鮮は米英中韓ロの取材陣を招き、北部・咸鏡北道(ハムギョンブクト)豊渓里(プンゲリ)にある核実験場の坑道を予告通り爆破していた。実際に核実験場が破壊されたのかどうかの検証はこれからだが、大陸間弾道ミサイル(ICBM)の試射中止もすでに宣言しているし、拘束していた米国人3人も解放している。米国が一方的に首脳会談をとりやめたことに北朝鮮の反発は必至とみられたが、一夜明けた25日に北朝鮮の金桂寛(キムゲグァン)・第1外務次官から出された談話は、意外と冷静だった。

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