抗議デモは「ハマスが糸を引く暴動だ」とするイスラエル側の主張にそった発言で、イスラエル軍による銃撃を正当化した形だ。トランプ政権で中東和平を担当するクシュナー氏の発言だけに、歴代の米政権が果たしてきた和平仲裁の立場から、イスラエル側のプレーヤーになったと見られても仕方がない。
ユダヤ教、キリスト教、イスラム教の聖地が集まるエルサレムの地をめぐるイスラエルとパレスチナの対立は、それぞれの感情が絡み合う極めて複雑で難しい問題だ。イスラム教の宗派対立もあって、火種は中東全体に広がる。紛争の歴史を繰り返してきた中東情勢は、一度火を噴けば世界全体の平和にも大きな影響を及ぼすだけに、「パンドラの箱」と呼ばれて、米国を含む国際社会が極めて慎重な対応をしてきた経緯がある。
だからこそ、米国を始め、多くの国が大使館をエルサレムではなく、商都テルアビブに置いてきた。「欠陥」としてトランプ政権が一方的に離脱したイランとの核合意を英仏独などが守ろうとするのも、中東の安定に向けた必死の努力の一環だ。
イランとの核合意離脱や大使館のエルサレム移転を相次ぎ強行したトランプ政権の一方的な判断は、パンドラの箱をこじ開ける愚策にしか見えない。朝鮮半島和平への取り組みでトランプ大統領に「ノーベル平和賞を」という一部の評価を帳消しにするものだ。大使館移転に抗議してトルコが米国とイスラエルから大使を召還するなど、すでに混乱が広がり始めている。
クシュナー氏は演説で「子どもたちの未来のためにイスラエルとともにある」と言った。同じ時、イスラエル軍に命を奪われたパレスチナの子どもたちがいる。トランプ政権の本質を見た気がした。(編集部・山本大輔)
※AERA 2018年5月28日号