前出の藤本さんによると、ネットで何でも1人で完結できる「合理的な時代」だからこそ、むしろ人を出し抜いて1人で成功しようとするよりも、誰かの力を借りて、時には誰かに力を貸しながら成功したほうが、時間も労力も無駄がなく効率的だと考える傾向があるという。協力して何かをなしとげることが感動を生み、ビジネスにもつながりやすい。

「身の回りの小さな幸せを追求するために、必要なら事業を立ち上げようとするマインドがある。一方で世界を変えたい、金持ちになりたいという個人的な野望は希薄。周囲をもっと喜ばせたい、こんなサービスがあったらいいのにという思いが世界の誰かに共感されると、クラウドファンディングなどでお金が集まる仕組みがあることも特徴です」(藤本さん)

 ストーリーを重視するZ世代にとっては、「共感力」もキーワードだ。10代をターゲットとした大型フェスを運営する「超十代」代表取締役の平藤(ひらとう)真治さんは、神戸コレクション、東京ランウェイのプロデューサーなどとして、90年代後半から10代の特性を観察してきた。

 平藤さんによると、00年代までは10代にも従来のマーケティング手法が機能した。だが10年代中盤以降は、数値化、言語化できない「無意識レベルの共感」が10代を動かす原動力に変わっていったという。

 可視化できない「共感」の正体を知るには、インフルエンサーと呼ばれる「10代のカリスマ」の存在が重要となる。平藤さんは、モデルの藤田ニコル(20)が「時代を変えた」と語る。

「親しみやすいルックス、フォロワーとも直接対話する気さくさが、10代には『等身大』と映った。ニコルが媒介となって、10代のフェイバリット(好み)を拡散し、価値を高めてくれる。SNSなどで炎上したときの打たれ強さもあり、自分たちの意見を代弁してくれるという共感が莫大(ばくだい)なフォロワーを生んでいる」

 フォロワーたちはやがて、「ニコルが好きなものは私が好きなもの」と感じるようになり、巨大な市場を生む。ニコルのツイッターのフォロワーである約240万人がニコルの投稿をリツイート(再投稿)すれば、一気に数千万人に広がる。その拡散力はファッション、音楽、スポーツ、ダンスなどさまざまなジャンルで「海外市場にも影響力がある」と平藤さんは言う。

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