斉藤さんがこれまで治療を担当した子どもへの性加害者は200人を超えているが、事件当時、就業していた受診者の約3割が子どもと関わる仕事に就いていた。
「自らの性嗜好を基準に仕事を選ぶことが社会的に許容されないのは、彼らも概ね自覚しています。従って、初診時は本人もその性嗜好を認めようとしないケースが大半で、捜査当局による取り調べでも供述しないケースもあります。保釈後に治療プログラムにつながり『小児性愛障害』の診断を受け心理教育などで病気について学ぶなかで、自分もそうだと気づき徐々に認めるようになるのです」(斉藤さん)
幼児への加害者のなかには「この年齢なら記憶は残らない。自分の欲求を満たせて子どもも覚えていないのだからウィンウィンの関係だ」というあまりにも身勝手な思考パターンを持つ者もいる。だが斉藤さんによると、被害を受けたのが仮に幼児期であったとしても、トラウマは体が記憶しているという。成長してから何かのきっかけで抑圧していた記憶がフラッシュバックし、精神疾患を患ってしまうケースもあるという。
「被害者の人生そのものを崩壊させてしまうのが性犯罪なのです」
昨年4月には、子どもへのわいせつ行為で処分を受けた教員が再び教壇に立つのを防ぐことを目的とした、いわゆる「わいせつ教員対策新法」が施行された。また、児童にわいせつ行為を働いた保育士の再登録も厳格化され、ベビーシッターについても氏名や行政処分の内容をデータベース化し閲覧できる制度がつくられた。これらについてもまだ不備は指摘されているが、一部の職業では対策が進んできた。
ただ、学習塾やスポーツ教室の指導員、音楽の講師など、子どもと関わる仕事はいくらでもある。
2020年には、「キッズライン事件」が世間を震撼(しんかん)させた。ベビーシッターと利用者をつなぐマッチングアプリ「キッズライン」を舞台に、男性シッター2人が次々とわいせつ行為をしていたことが発覚し逮捕された。その一人は、男児20人へ性暴力を加えていたことが明らかになり、計56件の罪に問われた。